エッセイ

エナガの住まいは匠の技で

エナガの巣作り

エナガという小鳥をご存じでしょうか。里山に行かなくても、街中のちょっとした林、鎮守の森といった比較的身近な所で見かける実に可愛い野鳥です。体重は500円玉1個程度と非常に小柄で、とびっきりのおちょぼ口に小さな目(写真1)。ひとたび知ると、無性にまた会いたくなってしまう鳥です。絶えずちょこまか動き回るため、写真に収めたい私にとっては実に難敵です。そんなか弱い鳥ゆえでしょうか、実に素晴らしい住居(巣)を作って天敵から逃れて、子育てをするのです。私はここ2,3年の間、この鳥の虜になり、撮影を続けてきました。一部を紹介しましょう。

写真1 エナガ

冬まだ寒い2月になると、エナガのペアが葉を落とした木の枝で「ジュルジュル」と鳴きかわしながらせわしなく動き回ります。よく見ると、幹や枝に生えたコケをくちばしでつまみ取っています(写真2)。ある程度口にたまると咥えたままさっとどこかに飛び去ります。実はこのコケが巣の建材になるのです。でもこんな細切れになったコケで巣を作っても風が吹いたり、雨が降ったりすればすぐバラバラになってしまわないのでしょうか。その点を工夫したのが彼らの知恵。コケの壁が崩れないように補強する技があったのです。使うのはマユ(ガの蛹)やクモの糸。マユは絹の仲間だ。実は絹を作るのに使われるカイコ自身は天然には存在しない“人工的な“生き物、家畜化された昆虫。その仲間にはヤママユガなどカイコに似たマユを作る種がいくつかいます。カイコの繭と同様、ヤママユガの蛹が天然繊維で数百メートルの1本の糸からできているというからびっくりします。ちなみに絹はその倍くらいの長さの1本の繊維だからもっとすごい。

写真2  苔をくわえたエナガ

このマユから、やはりくちばしで糸として引き抜き(写真3)、それを束ねてくちばしにくわえて、巣に運びます。そしてコケをこの糸でくっつけるのです。そのときにもくちばしがミシンの役割を果たします。我々のように手足を道具として使えない彼らはくちばしが手の代わりもして、コケを縫うのです。

こうして2羽のエナガが共同で、来る日も来る日もまさに寸暇を惜しんで巣作りに専念します。もちろんすべて天然素材です。触ってみると、ふかふかするものの、ちょっとやそっとでは崩れそうもない。上部に1羽が出入りできるだけの小さな孔を残して、図4に示したような巣を完成させます。

写真3 エナガの巣作り

実は、驚くのはこれだけではありません。2月というまだ寒い時期に巣作りを行い、その中に産卵して2月から4月の頃に巣の中で子育てを行うため、大切なヒナを守るためにはさらに防寒が必要なのです。そのために行うのが床にダウン(羽毛)を敷き詰めること。羽毛布団にも使われるあれです。細かい羽枝が広がっており、いくつかが重なるとたくさんの空気を含むことができ、それだけ保温性が高いものになります。これを床に敷き詰めて触った感じも優しく保温性も高いというわけです。

それにしてもこんなダウンの素材をどのようにして集めてくるのでしょうか。もちろん自分のダウンを引き抜いて使うわけではありません。他の鳥からもらってくるのです。当然ながら死んだ鳥から頂戴するしかありません。そうなんです、オオタカなどの猛禽を利用するのです。彼らがスズメやシジュウカラ、カモたちを襲って捕まえ、肉を食べて、脚やくちばしなどと共に羽も残したまま飛び去ります。そこにはたくさんの羽が残されるのです。こうした猛禽の犠牲になった野鳥の羽毛だけではなく、カモが水辺で羽ばたいたときに飛び散る羽なども利用するようです。こうして1,000枚以上の羽を集めて床に敷き詰めるというのだから感心するほかはありません。こうしてめでたく新居の完成となります。

完成したエナガの巣

天然素材ばかりで作った暖か住宅、私たちも学ぶ点がありそうですね。