エッセイ

ツバメの住まいもエコ

写真1 ツバメ

野鳥の巣で私たちに一番なじみのあるもの、それは間違いなくツバメの巣でしょう。もちろん高級食材のツバメの巣ではありません。春になると南からやってきて子育てを行うおなじみのあのツバメです(写真1)。高級食材のツバメの巣は全く別のアマツバメといって、私たちが見慣れているあのツバメとは全く別の鳥の巣なのです。

不思議なことに、ツバメは人家の軒先などわざと人目につく所に住居を構えます(写真2)。こんな野鳥はおそらくツバメだけではないでしょうか。他の野鳥の巣は一般には、見つかりにくい所にあります。一生懸命探さないと容易には見つけられません。簡単に見つけられるところでは、卵や雛が容易に天敵に見つかってしまい、彼らの格好のタンパク源になってしまうからです。

写真2 完成したツバメの巣

野鳥の天敵には、イタチなどの哺乳類もいますが、多くはカラスや猛禽、そしてヘビです。実は高い木の上にある巣にも、狙いをつけたヘビは上ってゆき、簡単に卵や雛を飲み込んでしまいます。下からはもちろん卵や雛は見えませんが、巣から落とす糞、その臭いで分かるようです。岐阜市の長良川ふれあいの森で毎年、サンコウチョウというブルーのアイラインが魅力的な野鳥が子育てを行います(写真3)。全国から野鳥カメラマンがやってきて写真におさめています。彼らの目の前でヘビがその巣を襲うシーンを見ることがあるそうです。でも、助ける術もありません。

それに対して人の往来の多い場所で子育てを行うツバメはどうか。どう考えても人の目に頼って天敵から守られながら子育てができると考えているに違いありません。考えて見ると、他の野鳥が多い山地でツバメを、そしてツバメの巣を見たことはまずありません。ヒナのエサになる昆虫が豊富なのに。カラスやヘビも人間が気になって、巣へのアクセスに苦労するようです。しかし、頭の良いカラスは人間が見つめる視線の先に巣があることを確認し、隙あらば何度も何度も襲います。

写真3  サンコウチョウのオス(右)とメス(左)の愛の交換(この後、共同でここに巣を作り始めました)

さて誰もが見るツバメの巣ですが、一体何から作られるのでしょうか?一見して泥ですね。泥を固めて作っているのです。エナガの場合にはクモやマユの糸でコケを縫いながらの建築ですが、ツバメの場合には左官屋さんです。春になると、田んぼの水たまりや小川の干潟の様な場所でその泥を口に含んで、建築中のマイホームに運ぶツバメの親を見ることがあります。田んぼだと泥と共に稲わらの切れ端なども咥えていきます(写真4)。泥だけだと壊れやすくなりがちですので、その泥のつなぎとして利用しているものと思います。田んぼにはいくらでもありますから、これも賢い手段ですね。

写真4 ツバメの親が巣の素材を採取

エナガは毎年、マイホームを新築しますが、ツバメは基本的に前年の巣をリフォームして使う様です。言うまでも無く、工期が短くなりますし、その点でもエコですね。

ここまで書いていると、そうだ、我が国の伝統的な住宅にも同じような土壁があることに気づきました。筆者の子ども時代にはどの家にでもと言って良いくらい、普通に見られましたが、最近は余り見かけなくなりました。この場合にも竹を格子状に組んだ枠に土が塗られます。古い土壁が部分的に壊れていると、そこに稲わらの様なものがたくさん見られた記憶があります。やはりツバメの巣との共通点がありそうです。どちらかが真似たのか。ツバメの巣から日本人がヒントを得たのかもしれませんね。

最近は土壁に代って、石灰を主成分とした漆喰や二酸化ケイ素を主成分とした珪藻土の壁が多くなったようです。いずれも調湿性、防火性、断熱性などに優れ、しかも天然素材でもあり、これからも新たな注目を浴びるかもしれません。同様に木粉を使った木の塗り壁も開発されており、県産材、国産材活用のトレンドと相まって、新たな展開も期待できるかもしれません。

 野鳥も私たち人類と同じ地球上で生を受けた生き物、地球上にある天然素材を有効に使う知恵を持ち合わせているようです。ただし、人類はもともと地球にはなかったプラスチックなどに頼り過ぎてきた様です。私たちが知恵を絞る際にも、他の生き物の生活スタイルをじっくり見て学ぶ必要がありそうです。国連サミットで決まった持続可能な開発目標(SDGs)の達成のためにも。