エッセイ

木の住まいが快適って感ずるのはなぜ?(その2)

今年の梅雨明けは素人でもわかりやすいものでした。半端ない大雨と記録的な総雨量の7月。8月に入って梅雨明けと同時に始まった酷暑の日々。あいにくのコロナ禍の下、室内で過ごすことが例年になく多い夏でした。残念ながら、この自粛生活はまだまだ続きそうです。

このように家で過ごす割合が高くなると、普段は気づかなかった住まいの良さ、欠陥などが目につくものです。この期に家具を新調したり、DIYを楽しんだりという人が増えたと聞きました。

昔と今の生活スタイル

筆者の小学生や中学生時代の夏休み、午後にはしっかり昼寝をする習慣でした。もちろんエアコンはおろか扇風機さえなかった頃です。ドアや窓を全開にして畳の部屋で昼寝をしたものです。すーっと通り抜ける天然の風を感じながら、気持ちよく寝た記憶があります。

この天然の風は1/fのゆらぎと言われます。従来の扇風機では、常に同じ強さの風があたるものでしたが、最近はそよ風や川のせせらぎのような不規則な自然界のリズム、1/fのゆらぎの扇風機が主流になったようです。天然のそよ風の人工版と言ってもよいかと思います。天然のそよ風に近いゆらぎは心地よさを与えてくれると共に、身体の内部の温度低下を抑えて、体調を維持するのにも効果があるようです。

一方、冬の寒さは厳しくて、積雪量も今よりうんと多かった記憶があります。ストーブもなかった当時の我が家に限らず、多くの家では火鉢で暖をとるのが普通でした。
中学3年生の受験生になると母親が足を温める足温器なるものを買ってくれました。小さな火鉢を横に置いて、丹前を着て足温器を使うと結構温かくて、すぐに眠気を誘われた記憶があります。足の裏が低温やけどにかかったこともありました。

 その後、サッシで密閉性を高めた家に住むようになり、エアコンをはじめ多くの電化製品が備わった日常になりました。

 こうした現在の住まいで冬になると気になるのが窓にできる結露。昔の我が家では火鉢にやかんを置いてお湯が常に沸いていましたが、その居間に窓がなかったせいもあるのか、結露を見た記憶がありません。少なくとも気になりませんでした。

結露について

最近の住宅は、密閉性が良くなって暖房性能が向上しました。コロナ禍で迎えることになりそうな今度の冬は絶えず換気をせざるを得ないため、結果として結露現象は緩和されるかもしれません。しかし、我が家ではここのところの冬場には窓周り、サッシ、さらには時には床までがビショビショになることがあります。カビの原因にもなりそうです。

この暑い季節にこのような結露の話をするのはいささか気が引けますから、少しの脱線をしましょう。暑いこの季節の幸せは冷えたビールを飲むことに限ります。最近は飲みに行くことを自粛していますが、あらかじめ冷やしてあったジョッキに満たされた生ビールは最高です。自宅でも、あらかじめ冷やしたコップに缶ビールを注いでぐいっとやれば十分です。発泡酒だってこうして飲めば一番搾りの気分です。そのときジョッキやコップの表面にできるのが結露。冬に電車に乗って結露した窓に指で字や絵を描く子ども達を見かけることもあります。同じ結露という現象です。

この結露について改めて少し考えてみましょう。

水の惑星と言われるこの地球。
空気には気体状態の水である水蒸気が含まれています。
存在し得る水蒸気の量は温度によって変わります。温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができます。含み得る最大の水蒸気の量は飽和水蒸気量と呼ばれており、温度によってそれが異なります。暖かい空気が温度の低いものに触れると、温度の低い場所では飽和水蒸気量が低いので、暖かい空気に含まれていた余分の水蒸気は液体の水に変わります。
これが結露となるわけです。
なお、天気予報などでいう湿度(相対湿度)は、実際に存在している水蒸気の量を、その温度における飽和水蒸気量で割った値のことです。湿度50%というのは、その温度で空中に存在しうる水蒸気量の半分の水蒸気量であるということになります。

木は息をしているとは

 さて、前置きが長くなりました。前稿に続く木の家の快適性のお話で、今回は木の家がその結露を起こしにくい特徴を有しているというお話です。

 よく「木は息をしている」などと言います。もちろん建材になった木は死んでいるわけですから息をするはずはありません。呼吸では酸素を吸いますが、実は木は水蒸気を吸ったり吐いたりします。つまり木は調湿性をもつのです。

 閉め切った部屋で寝ている間に、呼吸やら汗で部屋の湿度が上がることが知られていますが、クロスの壁では水蒸気を吸う機能を持たないのに対して、無垢の木の壁では湿度の上昇が抑えられるという実験データがあります。木を使うと快適な睡眠に導きやすくなるわけです。  

我が国伝統の土壁や珪藻土もそういった機能があり、住まいとしてのそれらの合理性が改めて見直されるべきかと思います。
壁に関して言えば、木のチップや粉末を塗り壁材として用いると、調湿性に優れた壁になることが実証されました。木のチップや木粉は空気と触れる面積が大きくなるだけに、調湿機能をいっそう高める効果があるはずです。実際に岐阜高専の中谷岳史先生(現信州大学)による実験結果では、この木の塗り壁の調湿性能は漆喰や珪藻土を上回るということです。

古民家は先人の知恵が詰まった建物

 昔の我が国の住宅は柱や梁に使われる木、土壁や漆喰、茅葺きの屋根から成っていました。筆者の在所も典型的な作りの住宅でした。今、人が住まなくなった民家が古民家として新たな注目も浴びつつあるようですが、考えてみれば合理的な住まいと言えるかもしれません。そもそもすべて素材は天然のもの。地産地消です。地元の風土で育った地元の素材は地元の建築素材にはふさわしいのでしょう。ぎふの木ネットでも県産材の活用を謳っていますが、地元でつくる家には地元の気候で生育した木を使ってあげるのが一番自然な事かもしれません。古民家は先人の知恵が詰まった建築物、やはりこれを改めて見直す価値がありそうです。

木の家で快適な湿度が保たれる理由

 さて乾燥する前の木、挽いたばかりの木の水分量は40~200%だそうです。相当の量の水を含んでいるわけです。これを木材にするためには乾燥させる必要があります。通常に使用される木材の含水率は8~25%程度と言われます。大気の湿度により変わるわけです。

乾燥された木材はその水分量を保とうとして、前に述べたように、空気中から水分を吸収したり、放出したりします。湿度が高い環境中では水分を吸収し、湿度が低くなると、それを放出します。これが木材の調湿作用であり、大体湿度60%程度に保ってくれるとされています。なお、広葉樹に比べて密度の低いスギやヒノキはより多孔性のため、調湿効果は高いとされています。こうして木の家では快適な湿度が保たれることになります。それに土壁や漆喰、木の塗り壁などを組み合わせれば、その効果はいっそう高くなるというわけです。この60%位の湿度は、私たちが快適と感じられるものだそうで、良くできたものだと思います。湿度が高くなるとカビ菌やダニにとっては過ごしやすくなるようで、カビの発生やダニなども出やすくなります。

木の家とウィルスとの関係

今は新型コロナウィルスの話題が欠かせません。木の家とウィルスとの関係はどうでしょうか。ウィルスの感染に関連してエアロゾル感染も話題になります。空中に浮遊するごく小さな粒子にウィルスが付着しているとそれを経由して感染する可能性もないわけではないと言われています。空中に浮遊している微粒子は、湿度が低いと水分が蒸発し、ウィルスが乾燥状態になると早く不活化するとされており、木の調湿性能がプラスに働くかもしれませんね。このあたりも早く検証されることを願いたいと思います。