取材レポート

板蔵ファクトリー訪問記

いささか肌寒さを感ずる晩秋の午後、瑞穂市にあるヤマガタヤ産業(株)の子会社板蔵ファクトリーを訪ねる機会を得た。熟練された職人の技を駆使して家具を中心に製作を行っている会社だ。この日は1階の製作現場の見学はせずに、改装中のショールームだけを見学させてもらった。ショールームだけとは言っても、広い面積の2階から5階までの陳列品を全部見るのは実は結構大変だった。

世界中の銘木がここに

ここ板蔵ファクトリーの大きな売りは、なんと言っても板蔵ブランドの一枚板だ。2階、3階、4階の大きな部屋には至る所にこの一枚板の商品が並んでいる。とにかくサイズがデカい!筆者の自宅はもちろんだが、一般家庭のテーブル用には大き過ぎる。スギ、ヒノキ、ケヤキ、トチといったおなじみの国産材の他に、「この~木、なんの木」のモンキーポット、紫が美しいパープルハートウオルナットなど、世界中からの銘木がここにある。樹種だけでも100種を超すという。見るだけでもまさにワクワクだ。木材好きな人にはたまらないだろう。どれも天然の杢目が美しい。板周囲の樹皮や節がそのまま残されて、これまたとてもいい感じだ。

そしてなんと言ってもどれも世界でオンリーワンの一枚板であること。だから、これらを使ってオーダーメイドでつくる家具ももちろんオンリーワンのオリジナルということになる。量販店で買ったお値打ちの家具ばかりが並ぶ筆者にとっては、この職人技で仕上げる重厚感あふれる家具にはあこがれるが、ハードルは高い。

レストランやスナックなどのカウンターテーブル、会社のオフィステーブルなど、想像するだけでも楽しい。ここで加工されてワンストップで完成品に仕上がるというのもありがたい。

以前にも見たことがあるが、よくあるウレタン塗装の他に藍染め加工を施したものやピアノ塗装を施したいかにも高級そうなものも非常に魅力的だ。我が国の伝統的な藍染めの伝統工芸の技を活かした藍染め塗装の一枚板は、我が国の美を究めた一品と言えそうだ。
そのほか、県産材のコーナーもこれから充実させてゆくとのことで、県産材の利活用に関するセンター的役割も将来には担うかもしれないと感じた。期待大である。

宇宙船の木製建築物

この日の見学でもう一つ目を引いたもの、それは宇宙船の格好をした木製建築物だ。今年初めに山県市にあるキミドリ建築を訪れた際に、サッカーボール状の構造物を考案して住宅などにされたことを熱く語っておられた恩田代表を思い出した(本コラム参照)。この宇宙船のような木製建築物もやはり彼のアイディアで作り上げられたものだ。恩田代表のユニークな発想力には改めて驚いたが、すごいのは、その強度やデザインは彼独特の計算を基にしたもので、外側を構成する木製のピースはすべて同一規格のもので、この構造物はそれらを巧みに組み合わせたものだという。彼の豊かな感性と力学計算の確かさには感服するしかない。

岐阜大学と共同の木質実験も

5階には実験室が3部屋つくられ、この日も3人の岐阜大学の学生が中に閉じこもって実験に携わっていた。実験室にある木の塗り壁(Mokkun)の効果を検討する実験だ。一つの部屋はスギの塗り壁、ヒノキの塗り壁、それに比較対象としてクロス壁のもの。この中にモニターとなる学生さんが閉じこもって過ごし、入室前後の唾液アミラーゼの量を計測したり、ストレス計でストレスの変化を、またクレペリンテストで作業効率の変化の測定をしているとのことだ。

これを毎日8週間続けるという。木の塗り壁の次には無垢の羽目板での検討も行うそうだ。森林浴として知られているフィトンチッドの効果が、実際のヒトで測定値としてどう現れるか、結果が非常に楽しみだ。

比較的短時間の見学ではあったが、改装しつつあるファクトリー内部を見ることができ、完成への楽しみが増した。見学を終えて建物から出ると、いつの間にか晴天で風もなく、心地よい小春日和になっていた。

なお、ネット上でショールームのVR体験をすることができるので、ご参考までに。