取材レポート

岐阜高専吉村優治研究室訪問記

新型コロナウィルスの影響で、Dr .みのりんの訪問も自粛せざるを得ない状況が続いてしまった。その中、厳しかった猛暑、残暑からうって変わって急に秋の風が感じられるようになった9月29日、かねてから知り合いであった吉村優治教授を岐阜高専環境都市工学科の研究室に訪ねた。

森林を守るとは

岐阜県は面積の8割が森林という全国2位の森林県。岐阜高専のある本巣市は86%の森林面積割合とのこと。最近、ひとたび雨が降るととんでもない豪雨になって川の氾濫や土砂崩れなどが頻発するようになった。そのたびに、森林の管理の不十分さがそれらの災害の一つの原因だと指摘されている。森林がもつ保水能力が低下したのだという。獣害も年々ひどくなってきているが、これも不十分な森林管理と無関係ではないであろう。こういった問題意識をもって臨んだ今回の面談。そもそも森林を守るということはどういうことなのか、その意義は何かといったことについて、理論的な話でも聞けるかなと楽しみにしていた面談だった。

キーワードは「間伐」

キーワードは予想通り、間伐だった。間伐は、木の密度が高くなりすぎた森林を適正な密度にして、健全な森林に導くために行う作業、いわば間引きである。今風に言えば、ディスタンスを保つということである。

間引きと言えば、素人の私には野菜の栽培で密になった苗を適当に引き抜いて、残った苗が立派に育つようにすることというイメージだ。
間伐は大いに奨励されているものの、なかなか進んでいないという話をしばしば聞く。そのあたりはひとまずおくとして、この日は間伐がなぜ必要なのかという点についての実験的検討を聞かせていただくことになった。

間伐が及ぼすメリット

 まず間伐されている森林(間伐林)とされてない非間伐林とで森林の温度はどのくらい違うのだろう。そう言えばそんなことは今まで考えてみたこともなかった。東濃ヒノキで有名な中津川市加子母の森林で、同じような環境で間伐林と非間伐林とで林の温度を比較したデータを見せてもらう。それによると、間伐林の方がなんと約10℃も高いとのサーモグラフィーによるデータだった。これには正直びっくりだ。エアコンで外気温と10℃も上げたり、下げたりしたときに感ずる温度差を考えれば、ものすごい差である。

それは植物の生長に大きな影響があることは素人の筆者にも容易に推測される。
要するに単純に、間伐林の方が太陽光が入り込みやすいわけである。温度が高いとやはり植物が育ちやすくなり、下草も光合成をより活発に起こして良く育つことになるという単純な話である。

非間伐林では木は細長いものの、木の総数は多いため、トータルな光合成の量、すなわちCO2吸収量は多くなるようにも思えるが、間伐林では、太くなった木に加えて生長する下草もあって、CO2吸収量は多くなるという結果であった。地球温暖化の進行の抑制効果があるということになる。

なお、この日には話題にならなかったが、林内が明るいと、近年話題となっているイノシシなどの獣も棲まないはず。彼らは昼間にはうっそうとした暗い林内に身を隠していることが多いからだ。

これと関連して重要なことは、水害や土砂崩れにもこれが大いに関係していることである。未間伐林では下草も余りなく、木の根も貧弱になって、高く伸びた木からの雨が直接山肌を下る際に、山肌を削ってゆくのだ。要するに土砂災害を引き起こす可能性が大きくなるということである。吉村先生が実際に地盤強度を計測した結果によると、明らかに間伐林の方が地盤強度が高いとのことで、数値的に示されると説得力がある。
さらに土壌の保水性の実験データも示された。
結果としては、間伐林の方が土壌の含水率が明らかに高くなっているとのこと。

これは、大雨が降っても土壌に水をため込む能力が高いことを意味している。天然の広大なプールが地下にあるような感じであろう。
緑のダムである。
都会で大雨が降ると一気に冠水してしまう景色を毎年見ている我々には大変分かりやすい話だ。こうした機能は、下流に流す水量を調整する水源涵養機能と呼ばれるものである

適切な間伐がもたらす「森林の機能」

昆虫少年だった筆者(実は、今も変わりませんが)は、下草が豊富に生えれば、いろんな虫も棲むようになり、それをエサにしようと野鳥やその他の動物も棲むようになるはずである。こういった生物多様性の回復も環境保全の意味では非常に大切なことと考えている。

土壌が地盤の強度に与える影響については上に書いたが、これに関連してもう一つ興味深いお話を聴くことができた。それは呼吸による影響である。以前の本欄にも書いた覚えがあるが、植物は動物と同じように呼吸もし、気孔を通じてCO2を大気中に放出している。昼間は光合成によるCO2の消費の影に隠れているが、夜はそれが明らかになる。こういった葉にある気孔以外に、根の呼吸もあるのだ。さらに土壌には微生物や小動物も棲んでおり、有機物を食べて分解してCO2を出す。根呼吸と微生物呼吸を合わせて土壌呼吸と呼ぶそうで、かなりのCO2放出量になるとのことである。

土壌呼吸を測定する測定もあるそうで、これによって実測すると、その呼吸量は間伐林の方が圧倒的に多い結果とのこと。これは間伐林では光が差し込んで温度も高かったため、微生物量が多くなっていると考えられ、そのために土壌呼吸が多くなったためと説明であった。

さらに、下草がある場合とない場合とを比べると、ない場合の方が放出されるCO2量は圧倒的に多くなっており、下草の光合成の効果が多いとの推測であった。ということはわかりやすく言ってしまえば、間伐林では太陽光が入り込み、微生物なども活発となり良好な土壌になると共に、光合成も盛んで土壌呼吸量を上回り地球環境的に良好になると考えて良さそうである。


吉村先生の研究結果を聴いて、適切な間伐が、CO2吸収、土砂災害防止、生態系保全(生物多様性)、水源涵養といった、森林が本来もつ機能を有効に発揮させることに寄与することが改めて分かった。

間伐材の有効利用法を考える

ただ間伐したはいいが、その場に放置されて林地残材となるだけでは意味が無い。間伐材の有効利用法を考えることも必要である。吉村研究室では、間伐材を使った新しい簡便な木質舗装の検討もされていた。非加熱で無溶剤タイプの水性アスファルトに間伐材を破砕したものを適当な割合で混合するというものだ。3時間程度で固まるため、樹脂系木質舗装のように長期間の養生を必要としないし、常温での施工が可能であるなどの特徴があるとのことである。実際に羽島市運動公園や谷汲緑地公園などでの施工実績もあるとのことだった。

もちろん岐阜高専の敷地(中庭)でも実験舗装がなされており、実際に見せてもらった。歩いてみると、柔らかい感じで、実際に硬さを測定すると、一般的なアスファルト舗装の1/4程度とのこと。そうするとだんだん沈んでいってしまうのではと心配になるが、我々が歩行してもほとんど沈下しないという結果だそうである。

筆者も間伐材をチップ化して木質ボードを作ったり、ペレット燃料にしたり、木の塗り壁材にしたり、抽出して精油を取り出したりなど、いくつかの活用法を見聞きしてきた。こういった活用がいっそう大規模で実用化されることを願うばかりだ。

 吉村先生からいろいろとお話をうかがった後、地元本巣市産、岐阜県産の間伐材を使用した2棟の「環境学習ハウス」を見せてもらった。ペレットストーブや薪ストーブなども設置され、太陽熱を集光して調理に使う装置など、環境教育にふさわしいものが所狭しと置かれてあった。

 岐阜高専も現在、授業はすべてオンラインでなされており、この日は定期試験で教室には試験問題に取り組む学生の姿があった。ご多忙の中、貴重な時間を割いていただいた吉村先生に感謝したい。