エッセイ

木の住まいが快適って感ずるのはなぜ?(その1)

木の家で感じられる”ぬくもり感”とは

先日(8月10日)、NHKで「アファンの森よ永遠に~C.W.ニコルからのメッセージ」という番組が放送されました。偶然、スイッチを入れた時点で残念ながらもう終盤の場面でした。信州黒姫山麓に長年にわたってニコルさんが築き上げてきた貴重な森の素晴らしさ。森林大好き人間の筆者だけに最初から見るべきだったと後悔しきりです。番組では、木の建物の良さについて触れられていました。また、木の家でまず感ぜられるのは“ぬくもり感”だとナレーションで語られていました。

そう、木の家と言われてまず連想するのはやはりぬくもりだと言われます。でもこのぬくもりとは一体何でしょうか?見た目の印象?ピカピカする金属などと比べると、木肌が出た木の色は反射も少なく、確かにぬくもりが感ぜられます。ヒノキに代表されるあの香り、そして、森林浴で感ずる癒しを連想するからでしょうか。そんなことをあれこれ考えているうちに、素人なりに木のぬくもりについて改めて考えてみることにしました。

そもそもぬくもりと言うからには、実際に触れて暖かさを感ずるということのはずです。実際、鉄やプラスチックに触れた時と比べると木に触れた時には優しさというか、温かさを感じます。それは一体なぜなのでしょう?

エナガの知恵を借りた?!

筆者はぬくもり感と言えば、例えばモフモフのネコや羽毛布団などを連想します。寒い冬、羽毛布団にくるまれて寝るのはまさに天国です。それをもたらすのは素材としての羽毛。鳥はもともと羽毛をもっていますが、エナガという可愛い野鳥は、その羽毛を巣の素材に、つまり彼らの住宅の保温にも利用しています。

野鳥観察が趣味の筆者は、本コラムのシリーズの「エナガの住まいは匠の技で(2020.2.14)」、「エナガの住まいは匠の技で~その2」(2020.3.27)でそれらについて触れましたので、ご興味のある方はお読みください。要するに、エナガは巧妙に作った巣の中に、他の鳥の死骸から集めてきた羽毛を敷き詰めて、寒い時期の子育てに役立てるという話でした。

これは、羽毛が重なると羽毛の間に空気の層が幾重にもでき、エナガがその上に座ると、その体温が外に逃げにくくなり、暖かさが保たれるということです。こうして2月、3月の寒い時期に抱卵して孵化させ、巣の中で子育てをします。これはわたしたち人類が羽毛布団を使い始めるうんと前からエナガが行ってきたことです。そういう意味では、私たちは彼らの知恵を借りたと言えるのかもしれません。

熱電動率の話

基本は、空気が熱を逃がしにくいということを利用するわけです。言い換えれば、空気は非常に熱を伝えにくいのです。熱の伝えやすさを熱伝導率と言いますが、データを調べてみますと、空気の熱伝導率は金属アルミニウムのなんと約1万分の1です。鉄棒などに触れると冷たく感ぜられるのは、私たちの手のもつ熱がすぐに奪われてしまうためと言えます。要は、鉄などと違って空気は熱をほとんど通さないのです。

繰り返しのようになりますが、そもそも熱は温度の高い所から低い所に移動します。電流という言葉があるように熱流という言葉があります。電気抵抗が高い物質は電流を余り流さないのと同様、熱抵抗の高い物質の中は熱流が小さいのです。空気は電気抵抗も高いし、熱抵抗も高く、電気も熱も通しにくいのです。筆者は以前に、エネルギー管理士の資格試験を受験する方のための講習をしたことがあり、その折りにはこのような熱の伝わり方の講義をしたものです。

でもストーブを使うと暖かくなると言うのは、熱が空気を通ってくるのではないかと疑問が生ずるかもしれません。実際は空気が熱を通しにくいので、それだけではなかなか暖かさを感じられないはず。ということで、ファンヒーターのように対流を起こして熱を伝えることをせざるを得ないわけです。

空気が熱を伝える実例

例によって、また横道にそれましょう。以前に日本金属学会・鉄鋼協会というデカい学会の秋季大会が岐阜大学キャンパスで開催された事があり、縁あって筆者が実行委員長を仰せつかりました。9月の岐阜は厳しい残暑で知られています。そんな中、エアコンのない体育館でのポスターセッションが計画されました。

学会事務局からはスポットクーラーをいくつも設置してくださいとの強い要望がありましたが、省エネに反するとあえて反対し、なんと氷柱をたくさん立てる提案をして、最後までその案を押し通してしまいました。
もちろん、氷柱を設置するだけでは涼しくなりません。

空気が熱を伝えないからです。
それでどうしたかというと、扇風機で対流を起こしてやりました。
更に岐阜大学の写真入りのうちわを数千個作って、参加者全員に配るということもしました。後にも先にもないこの取り組みは、学会本部の予想と違って大変な評判を呼びました。今思い出してもニンマリしてしまいます。

ついでに言いますと、熱の伝わり方には、最初に述べたような熱伝導の他にこのような対流というのがあるのです。それから熱の伝わり方にはもう一つ、放射というのもあります。これは高温の物体が出す電磁波が伝わってくるというもの。電磁波というと最近は神経質になる人もおられるかもしれませんが、いわゆる光(可視光線)も電磁波の一つです。もちろん赤外線もそうで、可視光線よりも波長の長い電磁波なのです。遠赤外線ストーブは熱線とも呼ばれる波長の長い電磁波である赤外線が伝わってきて暖かさを感ずるわけです。

木材は熱を伝えにくい、逃がしにくい

さて本論に戻って、木の場合の熱の伝わり方はどうなっているのでしょう。鉄やコンクリートに触れた場合よりもぬくもりを感じられるのは、やはり空気層が幾重にも重なっているに違いありません。

実際にその通りです。木は無数の細胞からできています。言うまでも無く木材は十分乾燥させて使われます。そうでないと寸法の変化が生じてしまうからです。筆者は昨年、ぎふの木ネット協議会に加盟されている県内の企業のいくつかを訪問する機会を得ました。含水率を目安に、乾燥工程にこだわって製材事業を進めている企業がいくつもありました。大雑把に言うと20%以下の含水率にしたものが建材として市場に出されているようです。

乾燥ということは細胞の中に含まれている水分を取り除くということで、細胞壁だけが残り、水分が抜けた後に空気が入ることになります。幾重にも細胞が連なってできている木ですから、この木材には結果として幾重にも重なる空気層ができることになります。ということで、木材は熱を伝えにくい、熱を逃がしにくい材料であるということになります。あえて言えば、羽毛布団と同じ原理であることが分かります。無垢材でもぬくもりを感ずるのはこういうわけだと思います。

木の快適性

このように空気の層ができると熱が逃げにくくなり、ぬくもりを感ぜられる訳ですから、断熱効果があるということになります。住宅でも省エネ効果を狙って断熱材が使われるようになり、住宅メーカーもその技術に工夫をされているようです。夏には日射や熱気を遮って冷房効率を向上させ、冬には外の冷気が入らないようにして暖房効率を上げるわけです。繰り返しになりますが、基本は空気を利用するなのです。実際、繊維系の断熱材は、繊維と繊維の間に空気を含ませたものですし、プラスチック系の断熱材は、発泡でできたプラスチックの中の気泡の中の空気を利用しています。

そう言えば、私たちの生活の身近にある発泡スチロールもその類いですね。軽量で衝撃にも強いなどの特性がありますが、空気を含んでいますのでやはり断熱性に優れています。触れるとやはり温かみを感じますね。

 ということで木のぬくもり感だけでいささか長くなってしまいました。木の快適性はそれだけではないはずです。思いついたら、続きを書いてみたいと思います。