エッセイ

エナガの住まいは匠の技で~その2

(写真1)カップルで巣を建設中のエナガ

匠の技を駆使して作った野鳥エナガの住宅(巣)。前回、その技のいくつかを紹介しました。

最初に、エナガのカップルが共同して巣を作っている写真を示します(写真1)。こうして作られる住居の住み心地はどうでしょうか。コケをマユなどの糸で編んで作られるフカフカで弾力性に富んだ住まい。しかも床などには羽毛が敷き詰められて保温性にも富んでいます。きっと抱卵中の親鳥にも、孵化して巣立つまで過ごすヒナたちにとってもフカフカの住宅に羽毛布団の上で居心地が良いに違いありません。

(写真2)オオタカの巣 右に親がいます

私たちが公園や神社などの大きめの木の上の方や電柱の上などで時々目にするカラスの巣、これは小枝や時にはハンガーなどプラスチック製の人工物などを集めて敷き詰めただけのもので、横に小さな出入り口があるだけの囲まれた空間のあるエナガの巣とは全然違っています。オオタカの巣も木の枝や葉などからできています(写真2)。オオタカはこのあたりの野鳥の王者とも言うべきもので、天敵はいないから大丈夫、なんて考えがちですが、決してそんなことはありません。天下のオオタカとは言え、そのヒナは実に小さくて弱々しく、親の留守中には簡単にヘビやカラス等の天敵にやられてしまいます。以前にオオタカの子育てを羽島市で観察したことがありますが、彼らの巣は前年のものをリフォームしたものでした。もちろん新築と違って省エネで作り上げることができます。

エナガはコツコツと作り上げた巣で無事に子育てをして巣立ってしまうと、翌年はその巣を二度と利用することはないようで、毎年一から作り直します。でも丈夫なクモの糸やマユの糸でしっかりと編み込まれたコケの住まいは、使われなくなっても簡単には壊れません。オオタカの様に再利用した方がエコだと考えるのは私たち人間だけの勝手な思いでしょうか。翌年に前年の巣を再利用しないのは、もしかしたら共同で作り上げてゆく過程でカップルが愛情を深めてゆくのかもしれませんね。そう考えると、この点でも私たちが学ぶべきことがありそうです。

さて、このようなエナガの子育て住宅にはいろんな点で合理性、必然性があるようです。エナガはほかの野鳥よりもやや早い時期、2月のまだ寒い時期から巣作りを行います。ということで保温性、断熱性に優れた工夫をする訳です。ほかの鳥のように春になってから産卵したり、抱卵すればいいのでは?と思いますが、天敵のヘビがまだ冬眠している間に育ててしまおうというわけでしょうか。これも理にかなったことでしょう。なにしろヘビにとっては、鳥の卵や雛は最高のごちそうですから。人間にとっても鶏卵は良質のタンパク源ですからね。

(写真3)巣の中の糞を外に捨てるエナガの親(右にあるのが巣)

保温性、断熱性に優れた100%天然素材の新居の中に、エナガは10個ほどの卵を産みます。10個の卵がすべて孵化すれば10羽のヒナ。あの小さな巣の中できっと押しくらまんじゅう状態かと想像されます。成長して巣立ちが近づく頃には、ヒナたちは親鳥の大きさに近づいてきます。それでも一カ所の出入り口だけが開けられたこの住宅の中で過ごしています。当然ながら窮屈に違いありません。そのときに役立つのがコケと糸でできたこの住まい、弾力性が大いに役立つわけです。住居が自動的に大きくなるのです。外から見ると、巣の下部の方が広がってくるのが分かります。マユを構成する糸やクモの糸の強さと伸縮性を活かしたこの住宅、実に合理的ですね。

ところで10羽ほどもヒナが生まれ、育っていく過程では当然ながら大量の糞が出るはずです。閉じ込められた空間の中では衛生的に良くありません。ではどうするかと言えば、ほかの鳥でもそうですが、くちばしで糞を外に捨てるのです(写真3)。彼らのくちばしは便利なもので、エサを運ぶにも、食べるにも、建築資材を運ぶにも、糞を捨てるにもフル活用ですね。こうして快適空間の中ですくすくと育てられるのです。