エッセイ

新型コロナウィルスに思う(その1)

3月10日付けで本欄に、素人ながら「居住空間における除菌に関する提言」を投稿しました。その後、新型コロナウィルス禍が日に日に深刻になり、テレビを見るにつけ、次第に恐怖や不安でパニック状態になりそうです。ということで、新型コロナウィルスに関連して、特にサイエンスの要素を中心に、少し落ち着いて考えてみようと思い、改めて思いを書くこととします。

新型コロナウィルスの蔓延の進行に伴って、岐阜県でも「非常事態宣言」が発出され、世界の先進と思われてきた我が国の医療体制の崩壊も現実のものとなってきました。4月中旬現在の状況に鑑みると、このウィルスとの闘いは、ひょっとしたらとんでもなく長く、厳しく、つらいものになり、私たちの今までの生活スタイルを、いや人生観すら変えざるを得なくなるかもしれないと感じています。

感染の拡大を防ぐためにすべきこと、それは言わずもがなですね。「密閉」、「密接」、「密集」の「3密」を避けて外出し、人との接触を避けること、石けんやアルコールによる念入りな手洗い、ドアノブなど日常生活で触れやすい箇所の消毒など、耳にたこができるほど言われ続けている内容です。

ウィルスとは

私たちは人類にとって最強にも思えるこの見えざる敵、新型コロナウィルスとは一体何ものでしょうか。そもそもウィルス自身は決して珍しいものではなく、毎年流行するインフルエンザでいわば子ども達にもおなじみのものです。人類の歴史を振り返ると、今までも歴史を変えたウィルスの仕業が知られています。アステカ帝国(今のメキシコ)やインカ帝国がスペインにより征服されたりした16世紀、直接的には戦闘により征服されたのですが、実際は彼らが持ち込んだ天然痘ウィルスの蔓延が大きな要因になったと言われています。まさに歴史を変えたこの怖い天然痘ウィルスはその後、めでたく根絶されましたが、これが根絶された唯一のウィルスとされています。強力なワクチンが開発されて、一度の接種で抗体ができ、その効力が一生持続するということで、全世界的にその接種を世代にわたって続けた結果、根絶されたということです。となると新型コロナウィルスに対してもワクチンの開発が待たれることになりますが、そんなに簡単ではないようです。

ウィルスの不活性化とは

さて、コロナウィルスもインフルエンザウィルスと同様、ウィルス本体を包む表面がエンベロープと呼ばれる膜に覆われており、エンベロープウィルスと呼ばれています。そのエンベロープにより肝心の中身が保護されているだけに、その膜を破ればあとは弱いもので、一気に感染力を失います。

考えて見れば、私たちも皮膚という皮に覆われて、命が保たれています。仮にやけどなどで皮膚が大きくダメージを受ければ命を失うことになりかねません。

樹木の幹や枝も樹皮で覆われています。シカなどに樹皮が全周食べられると、その木は枯れてしまいます。シカによるこういった被害は年々ひどくなり、林業における深刻な問題の一つになっています。このように動物と同様に植物も皮を除けば死に至るわけです。それだけ樹皮は大切な役割を果たしているわけです。果実の皮も中身の組織を守り、外敵に対して防御するための特殊な成分を含んでいるとされています。私たち生き物にとってはそれ摂取することが抗酸化力の向上などに役立つファイトケミカルとなるわけです。

ウィルスは生物の基本である細胞がなく、もちろん細胞分裂で増殖する機能を有していない点では生物ではないとされています。前回のコラムでは、ウィルスは無生物で物質といってもよいくらいと書きましたが、マスコミでもウィルスはステンレスの上で3日間くらい「生きている」などと生き物用の表現がされたりしているように、生物か無生物かは微妙のようです。生物の大家福岡伸一先生によると、ウィルスは生物と無生物の間に漂う奇妙な存在とのこと。物質なら動物の体内に入っても増殖はしないが、ウィルスはすぐに増殖を始めます。それはあくまでも動物の体内で細胞の中に入って初めて起こること。ステンレス上で3日間いたとしても決して増殖することはありません。ここではウィルスが生物か無生物かはさておいて、コロナウィルスのようにエンベロープウィルスを不活性化させて悪さをさせないようにするためにやるべきことは、皮を壊す、つまりエンベロープを壊すことです。ではどうするか。それについて前稿で書いたわけですが、それについてもう少し加えたいと思います。

アルコールの効果

その一つがアルコールによる洗浄です。エンベロープは水には溶けませんが、アルコールには溶けるからです。そもそもウィルスは感染した人の細胞内で増殖し、細胞膜などその細胞を構成するものを表面にまとって細胞から飛び出してくるのですが、そのまとったものがエンベロープ。これがアルコールなどいくつかの有機物に溶けるわけです。要するにこのウィルス自身は無生物ではあるものの、私たちの細胞を構成するタンパク質の衣を着ている点では完全な無生物とはいいにくい感じがします。であるが故に簡単に私たちの細胞の中に馴染んで入り込んで感染に至るようです。

次亜塩素酸

二つ目は次亜塩素酸による洗浄です。簡単に言うと、それのもつ強い酸化力でエンベロープを壊してしまおうというものです。次亜塩素酸(HClO)というと、難しい名前ですが、家庭にある塩素系漂白剤だと考えればおわかりでしょう。文字通りモノを白くするためのものですが、強い酸化力で汚れも分解し、殺菌もしてしまうわけです。

実は、我が国の水道法により、水道蛇口からでる水道水の中には0.1ppm以上の残留塩素が検出されることが義務づけられているのです。塩素を使うのは細菌などの増殖を抑えるため、つまり殺菌用です。水の中に塩素を注入すると、次亜塩素酸(HClO)や次亜塩素酸イオン(ClO)が生成されますが、これが残留塩素と呼ばれるものです。それが強い酸化力をもち、それにより消毒された水が水道水というわけです。これが含まれているおかげで、水道管を通って私たちの家庭にある蛇口から安全な水が出てくることになります。なお、いわゆるミネラルウオーターと呼ばれるものは、基準値が水道水より低くされており、その意味では水道水の方が安全のはずです。

ところで、最近は必ずしもそうではなくなったのかもしれませんが、岐阜の水は美味しいけど、都会の水はカルキの臭いもあってまずいとの体験をお持ちの方もおられるかと思います。水道水はその土地の河川などから取水した水を浄水場で消毒されたものですが、地域の原水の水質によって加える塩素の量が異なるために、臭いや味が異なるわけです。なおカルキというのは、正式には上で述べた塩素、次亜塩素酸とは別で、次亜塩素酸カルシウムのことです。プールでは主にこれが消毒用に使われています。

 このように次亜塩素酸は強い殺菌効果を有しているため、安心して飲める飲料水に役立っています。しかし強力な殺菌力をもつ塩素はもともと毒性のものであり、身体に良くないはずです。また水中に含まれる汚染物質と反応してトリハロメタンという発がん性の物質を生成することも知られています。現代を生きる私たちにとっては大きな問題ではないかもしれませんが、体内に蓄積されて後の世代の人間に悪影響を与えること指摘されています。

それ以外のウィルス対策

前回のコラムで書いた三つ目のウィルス除去法は植物から抽出されるフィトンチッドを使う方法で、これから大きなポテンシャルを有しており、これからの本格的検討が待たれますが、これについては今回は省略します。

蛇足ながらいうと、家庭などで一番手軽な方法は石けんで洗うことです。普通の石けんではウィルスをやっつける効果はありません。油や油で汚れた成分を水の中に分散させる、つまり水と油を馴染ませる界面活性剤の役割により、ウィルスや細菌を物理的に洗い流して取り除く、まさに除菌効果というわけです。

 以上、ウィルスの感染を予防する方法のサイエンスを少し書きましたが、基本は私たちの免疫力を向上させることでしょう。特にこういうときにこそ、感染防止に細心の注意を払いながら、決して内向きの生活に入り込むのではなく、自分のやれることを精一杯やる中でそれぞれの生きがいを見いだし、充実した日々を送ることが免疫力向上に結びつくものと思います。私もそれを実践すべく、日々努力しております。そのあたりは、昨年(2019年)11月26日に開催された「ぎふの木ネット協議会」総会での星旦二首都大学東京教授の講演でも話されました。星先生は「ピンピンコロリの法則」を書かれた方です。これによると、健幸長寿のためには、“きょういくきょうよう“が大切とのこと。「今日行く(きょういく)ところがあり、今日用事(きょうよう)がある」ってことです。コロナで外出自粛が強く求められているご時世、どうしたらよいのか誠に悩ましいところです。