エッセイ

頻発する森林火災に思う

頻発する山火事

先日、ブラジルにある世界最大湿原パンタナールで森林火災が発生し、焼失面積が1万9000平方キロメートルと全体の12%以上に及び、鎮火の見通しがないとの報道があった。ここはジャガーなどの希少な野生生物がいるが、食物連鎖の頂点に立つそのような猛獣が棲んでいるということは最高の自然環境で、まさに生き物の楽園である。生き物好きな筆者には生態系への影響が大変心配だ。ここパンタナールでは今年1月から1万5000件の火災が発生しているというからまさに深刻だ。

ここ数年、世界各地で大規模な森林火災が頻発しており、その被害も甚大になっている。
最近ではアメリカカリフォルニア州を中心とする実に広い範囲で燃え続けている山火事、ここも想像を絶する被害のようだ。死者や家屋の焼失などといった人的被害以外にも、森林資源の喪失や空気の汚染などその被害は従来の概念を覆すような規模のようである。アメリカ以外でも昨年のギリシャやインドネシアの山火事も記憶に新しい。オーストラリアでは多くのコアラ、カンガルーなどの野生動物が犠牲になったという報道に心痛めた人は多かったはず。最近の山火事は燃え始めると鎮火のめどが立たないくらい燃え続けるのが実に怖い。
野生の生き物の観察を趣味としている筆者、昆虫、は虫類、小さな哺乳類などの被害は壊滅的であろうと胸を痛めざるを得ない。

自然発火による山火事は植物の世代交代

筆者は以前、仕事でインドを訪問した際、ボンベイ(現在のムンバイ)空港から国内線でタミル州のコインバトール空港を往復したことがある。デカン高原を形成する西ガーツ山脈を飛行機から見下ろした時、所々で規模の大きい煙が立ち上る光景を目にした。現地の人に聞くと、普通の顔をして山火事だよとのこと。山火事と聞くと一大事だとすぐに考える筆者からすると、なんら驚いた様子もなく、雷などが原因で日常茶飯事だよという彼らの表情に、変なカルチャーショックを受けた記憶がある。

今になって考えると、こうした言わば自然発火による山火事が植物の世代交代を促していると言えそうだ。つまり、こうしたことが太古の昔から続いて、森林が守られてきたと言えるのかもしれない。休耕田が目立つ我が国、休耕して1年も経てば深々と草に覆われ、次第にその背が高くなり、そのうちに木まで生えてきて林になってしまうことを身の回りで見ている。植物も生き物たちと同様、自分の棲息範囲を広げようと懸命なのだ。

焼畑農業という農法がある。
森林などを焼いてできた畑で農業を営むものだ。この畑で長年にわたって耕作をするわけではなく、数年でそこを去るわけで、またやがて自然の植生に戻る。植物自身は大変しぶとく、放っておくとすぐに自然の植生に戻ることを熟知していたいにしえの人の知恵はすごいものだと改めて思う。そう言えば成奈良若草山の山焼きも、今は観光が主目的のイベントになっているが、元々は翌春の芽生えを良くするために行われたもののはずだ。

根は一つ「地球温暖化」

ならば最近の大規模な山火事の頻発は何が変わったためなのだろうか?
森林火災の直接の原因は火の不始末といった人為的なものも含めて様々なようだが、火災の大規模化の背景にあるのは、やはり地球温暖化ではないかと言われている。気温の上昇や乾燥により火が燃え広がることは容易に推測できる。

カリフォルニアやオーストラリアなどの大規模山林火災のニュースを見ていると、異常な乾燥や干ばつという言葉が必ずといっていいほど聞かれる。昨年のオーストラリアの山林火災では、観測史上最高の気温と乾燥が大きな要素であったと報道されていた。今夏のカリフォルニアのデスバレーで54.4℃という信じられない高温が観測されたという報道には正直驚いた。まさに大熱波だ。乾燥と合わされば燃えないわけがないと思ってしまう。

 こういった異常気象が日常化し、異常が異常では無い状況は世界各地で見られ、我が国も例外ではない。海水面の上昇に伴う台風の大型化、頻発する集中豪雨がそうである。大規模な山林火災とは現象的には全く反対のようであるが、異常気象、それをもたらしているのであろう地球温暖化という根は一つのようだ。

森林が開発によってどんどん伐採されて、森林面積が減少しつつある上に、このような大規模な森林火災が加わって、森林面積が年々減少、それもかなりのスピードで減少しつつある事態は深刻である。せっせと植林をして森林を増やせば、それに伴って二酸化炭素が吸収されて、地球温暖化が防がれるはずであることを私たちは十分認識しているにもかかわらず、この有様だ。もちろん森林の役割はそれにとどまるわけではないことは別稿に書いた。

地球温暖化は様々な悪影響を及ぼす

話は変わるが、今般の新型コロナウィルスも人類が森林を切り拓いたことによって、その地域に棲んでいた野生動物に寄生していたウィルスがヒトに感染する機会が増えたことに起因すると言われている。厚生労働省によれば、過去30年くらいに30種の新しい感染症が現れたとされている。このまま地球温暖化が進行すると、シベリアの凍土が溶けて、そこに眠っているウィルスが地表に現われて、新しい感染症を引き起こすとの話もある。この凍土が溶けると下にあったメタンが地上に出て、ここでもまた地球温暖化を促進すると言われる。メタンガスは二酸化炭素よりも温室効果が高いのだ。まさに悪循環だ。

このように地球温暖化は気候変動をもたらすことにとどまらず、様々な悪影響を及ぼすと考えられており、それを抑える努力をすることが私たちの喫緊の課題であることを改めて感じている。