取材レポート

株式会社伊藤製材見学記

事務所入り口前にて

気分よくドライブのつもりが、いきなり道に迷う?

よほどの晴れ男と晴れ女のコンビとみえる。またまたこの日も絶好の日和に恵まれての取材だ。目的地の伊藤製材所は山県市谷合。その地名を聞いただけで、里山好きのDR.みのりんはルンルンだ。

岐阜市を抜けて山県市高富から美山へ入ると、その名の如く美しい山の縁をぬってのドライブだ。途中、水栓バルブメーカーの集積した地区を通過し、半夏生の美しい武儀川沿いの谷に沿って谷合地区へ入る。

このあたりで車を降りて涼をとりたくなる衝動を抑えて、目的地に到着。と思ったら、ナビが導いたこの目的地はなんと社長のご自宅!。優しそうな奥様に工場の場所を教えてもらい、山県市クリーンセンターに向かう途中にある標高のやや高い工場へ急ぐ。

こだわりの乾燥の材料の前で

社長こだわりの原木仕入れ

ここで待ってくれていた伊藤道晴社長、林業従事者の中では若く、実にざっくばらんな性格のようで、一気に打ち解ける。

ここで扱う木材はすべてスギ。当然ながら長良スギ?と聞くと、全国各地からとの返事。そうなんだ、スギと言えば長良スギというのは岐阜県人の井の中の蛙なんだと妙に納得。岐阜県だけでなく、当然ながら、三重県、鳥取県、京都府など全国には優れたスギがたくさんあるのだ。

この会社の業務はその名の如く、製材である。伊藤社長のこだわりはまず丸太選びから。小口面を見るだけで、その木に対するそれまでの世話ぶり(枝打ちなど)、特性などがわかり、それの用途の仕分けができてしまうという。まさにプロの目利きができる社長さんだ。

羽目板にしてもフローリングにしても、節のない板材が求められるようになった今、この目利きが肝だと理解した。それにしても昔の羽目板などは節だらけだった記憶がある。それが木のアイデンティティーのように感じていた。それが本来の木の顔ではないかと思えるのだ。節を避けるこのご時世ゆえに、伊藤社長の目利きが大きな意味を持つわけだ。

こだわって仕入れている原木

社長の最高傑作 中に入れる「乾燥機」

社長のもう一つのこだわりは製材された板材の乾燥工程にあった。乾燥には、天然乾燥と人工乾燥の2種類がある。天日でじっくり乾かす天然乾燥は利点があるが、冬季に雪深いここ美山では不都合のようだ。

そこで人工乾燥となるわけだが、実はここにもプロの流儀があった。まず社長ご自慢の乾燥機を見せてもらう。いきなり乾燥機の中へとの勧めで、エッ入れるんだ!と声を上げてしまったDRみのりん。そうか、80℃などではないんだ。見ると設定温度は38℃で、このときの実際の温度は約41℃だった。じわっと汗をかかせるまさにサウナだ。スギ板を乾燥中で、かすかな香りもあって、アロマ付きサウナ状態。この際、“サロマ”と言っておこう。

乾燥処理実施中の乾燥機の中、当然、めがねは曇ってしまうと思いきや、意外なことに一瞬曇っただけですぐに消えて、それ以後は曇りがつかなかった。これが乾燥工程も終わりに近づいてきた証拠とのこと。通常は、やはり中に入っても苦しくなく、めがねが曇っても1分くらいでそれが消える位と、一見大雑把なもの。でもこれぞ職人芸なのだ。

この低温乾燥装置は全国広しと言えども、ここにしかないオンリーワンと伊藤社長が自負する機械。最初だけボイラーの熱を使うが、その後はボイラー不要でモーターから出る熱だけで40℃位を保つために、大幅に燃料費が節約でき、高い乾燥機の設備投資もすぐにペイできるようだ。超こだわりの技術者が手間暇かけて設計し、製作した国宝級のこの乾燥装置、プロ中のプロのような伊藤社長とのコラボが生み出す最高級品のスギの板材は素人目にも実に美しかった。匠の技はここにもあったのだ!

もの作りの技の伝承という課題がここにも

丸太の目利きを含めてこういった技術はこれからどのように伝承されるのだろうか。聞くところによると、乾燥機を作った技術者は高齢者で跡継ぎがいないとのこと、そういえば伊藤社長の後継ぎもめどが立たないとのことだった。

我が国におけるものづくりの技の伝承、事業承継は林業に限ったことではない。伊藤社長の職人芸は、我が国独特のものづくりの将来に対する不安を改めて再認識させられるものであった。とにかくこの日の取材も、考えさせられること満載で、大変有意義なものであり、訪問の機会を与えられたことに感謝したい。