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ヤマジョウ建設

ヤマジョウ建設 長屋社長×ぎふの木ネット協議会会長 吉田会長

パッケージ化≠完全な規格化

まず、構造材のパッケージ化を語る前に、御社のホームページを拝見すると「家づくりはお客様とともに」がモットーとあります。つまりは完全なオーダー住宅を目指して見えるということなのでしょうが、これはパッケージ化と矛盾していないですかね?

それは私もずっと思っていたのですが、注文住宅は何をもって注文住宅かということを最近考えました。そうすると、近年規格や法令の遵守が複雑になる中で、お客様には骨組みについてはあまり詳しくない方も多い。その中で、ゼロからお客様の希望を積み上げて耐震や断熱を無理やりくっつけて高額になったものを出すスタイルはもう難しいと思います。対して、まずわれわれプロが考えた骨組みや耐震・断熱性能などの規格を出して、お客様にはそうしてできた骨組みの上でいろいろカスタマイズしてもらう。そうした方がコストを抑えつつも注文住宅の良さも残せてお客様の満足にもつながると考えています。例えば私が考えている規格は、なるべく長いスパンでできるようにしながら間仕切りは自由に組めるようにしています。そうすればお客様の希望もある程度叶えられると思います。あと絶対担保したいのが、構造部分の許容応力度計算での耐震等級3と断熱等級4以上ですね。うちでは構造計算を済ませてある規格を8パターンぐらい持っていて、それを使えば安く抑えられますね。構造材パッケージを作る際には、そういうパターンづくりのサポートもできるようにしたらいいと思いますね。ぎふの木ネットさん側はすごく忙しくなると思いますが(笑)

お客様の満足度を考えると、すべて規格で決まっているよりは、自分で決められるものがあると良いですよね。確かに、私が昔マンションを買ったときにも中のクロスだけは選べました(笑) でも、それだけでもうれしかった覚えがあります。

ウッドショックと山側の現実

コストの問題は最近特に重要になってきています。ウッドショックにロシア・ウクライナ問題が重なって木材の価格も高騰しましたし。お客様が組むローンも2割・3割と上がるとなると、住宅が手に届かないような品物になってしまう。さらに、2025年からの省エネ基準適合の義務化、これに工務店さんがどこまで対応できるかが問題だと感じています。一方でウッドショックを受けて、一部の大手ビルダーでは、性能をわずかに下げてでも価格を維持しようという流れも出てきていますね。

それをしていると聞いている大手ビルダーさんは元々価格が他と比べて1割程度安いのですよ。われわれも性能では負けませんが、価格は甘く見ていると負けてしまうときもありますね。あちらはすべて規格化されていますし、海外に工場もありますから。でも、これから共同購入などを駆使し手グループで頑張っていけば対応できると考えています。しかし、われわれが住宅を建てるうえで、これまで構造材が占める価格が8~9%だったとしたら、2割上がったとしても12~3%ぐらいで。住宅価格全体を考えるならば木材価格以外のところもどうにかしなければならないと思います。

それはそうなのですが、木材以外の資源の価格もみんなインフレしていることが問題になりますね。アルミ然り、プラスチックや鉄・セメントも然り。

5月の連休明けから私が持っている山の木を伐りだしているのですが、初めて山で儲かったと言えるような状況になっていますね。通常は80~90年植えておく木も今が伐り時だということで伐っている。でも、これぐらいの価格が続いてくれないと、山に興味を持ってくださる方がいなくなってしまいますよね。

ですが、いくら収益が上がったといっても、山を持ってらっしゃる方からしてみれば、細い木以外は木の価格はそこまで上がっていない。

確かにそうですね。私も細い木を伐っているから儲かったのであって、山にある木の多くは太い木ですし。まだまだ山にとってはいい状況ではないですよね。ウッドショックなどが続いて価格がまた上がるとなると合板や太物の値段も上がってくるとは思いますが、全体の底上げが必要だと思います。

今回、外国産材は地政学的問題に左右される、そういうことは皆さま認識されたのではないかなと思います。これまでも海外のストライキや環境問題から一時的に外国産材の値段が上がって、国産材に目を向けられたときもあった。でも、今回のようにこれだけ長く続いた経験はないし、また同じようなことが起きたら皆が困る。だから今、国産材に戻らないともう二度と戻れないと思います。

これまで外国産材メインで使っていた方がいきなり国産材を使おうとすると、たいてい外国産材のサイズで注文してくるのですよね。でも国産材はサイズが違う。そこの統一もしていかなければならない。また製材品についても、現状の頼めばなんでもしてくれる状況だとサイズを細かくなり在庫が増えてしまう。製材の規格を作ってそれに合わせて設計もするようにして。うちだと下材は30mmと45mmの2種類しか使わないことに決めていまして。そうすると製材する方も楽でしょう? このような取り組みをするグループを作って、規格を揃えるだけで製材所の効率がとても上がると思います。あとは山と製材所との関係にどれだけ流通が関われるか、小さい連携でもいいので、最低限この値段でこれだけ売れるという保証をした上で山は年間これだけ木を買ってもらえる、製材所も買った分が売れてちゃんと流れていくという信頼関係を何本も築いてサプライチェーンを作っていく必要があると思います。

私の会社は岐阜を中心に事業をしていますが、将来的には他のエリアの同業者とも手を組んでいけたらいいなと思います。なにせ、大手だけで家が建っていくのは面白くないですからね。ぎふの木ネットは岐阜県も応援してくれていますし、追い風がありますから、早期に立ち上げて実績を作りたいですね。

製材所同士も、それぞれの得意分野を活かして連携してやっていけると思うのですよね。これについても、サプライチェーンの構築が重要となると考えています。

国産材へのこだわり

それでは、あとお聞きしたいのが国産材の関連で、今外国産材が引き金になってウッドショックが起きていますけれど、これから世の中はカーボンニュートラルとかSDGsとかの価値観が重視されるようになってくる。そのことについてはどう思いますか?

私は昔から国産材しか使わないと思っていまして。これは外国産が悪いという意味ではなく、使う可能性がないものという意味になります。ただ、全体的に見れば臨機応変にならなければならないとも思います。今まで国産材があまりにも使われてこなかったのは、戦後まだ木が若いうちは外国産材を使おうと輸入を始めた結果なのですよね。また、当時日本の木材生産の水準があまりにも低すぎて、サイズも品質もバラバラで使いにくいとなってしまっていた。外国産材の方がいいとなっていたのですね。でも、日本も頑張って規格がどんどんよくなって国産材の品質管理もしっかりしてきているのだから、やはりそこはある一定の量を国産材で補うのが大事だと思いますね。ただ、みんなが国産材を100%使用するのは現実的ではないとは思います。

ウッドショックになって、国産材の自給率が4割になったという状況なので、平常時にはそれ以下になるのではないかと思いますね。 長屋社長:柱や土台は自給率50%超えているみたいですけれど、横架材の方の割合をもう少し上げないといけないと思います。

ストレスなく歩き回れる家 ―断熱へのこだわり―

そういえば、ヤマジョウ建設さんと言えば断熱にこだわってらっしゃるイメージがありますね。

断熱は30年前からこだわっていますね。もうすぐ1000棟なので棟数は少ないですが自信を持っているところではあります。

それはリフォームも込みで?それとも……。

長屋社長:新築の棟数ですね。会社はもうすぐ70年になりますが、断熱を始める前の方が棟数多かったですからね。多い時だと年間40棟くらい建てていた頃もあります。

外張り断熱のメリットはなんですか?

一番のメリットは、人為的なミスで性能の差が出にくいことですね。それから、きちんとやれば床下から小屋裏までほぼ同じ温度にできるのでシロアリの薬品も使わなくてよくなります。健康にもいいし、木が一番いい状態でいられるので家が長持ちするのもメリットですね。さらに、土壁のような昔ながらの方法を使っても性能が変わりませんし、木の骨組みも全部見せることができます。なんといっても断熱性能も気密性能もすべて数字で担保できます。今話しているモデルハウスですと、UA値で0.34~0.35くらいですかね。隙間は0.5以下です。

外張り断熱は結構工数がかかるのではないですか?

始めた直後は建て方に6日かかったりもしました。でも今は1日でできます。慣れたこともありますがテープの貼り方ひとつから改善を重ねてきました。材料も変えました。

人間はだれしも自分や家族の健康には気を遣うものですし、昔から「健康住宅」という言葉もありますが、なにをもって健康住宅とするかはすごく定義があいまいですよね。ヤマジョウ建設の家での「健康」はどういうとらえ方ですか?

私のところでの健康住宅は、温度差がないから家の中をどこでも気軽に歩き回れる家だと思います。人間は足が第2の心臓だから、ストレスなく歩き回れるのが健康に繋がると思っていますね。高気密高断熱とか省エネとか自然素材などは付帯的には話しますが、そういうのはもう当たり前になってくる。車を買うときに「これにはブレーキがついていますか」と聞く人なんていないでしょう?

なるほど。

それに加えて、3年に1回の家の定期健診を始めました。これまで、今まで自分たちはちゃんとやっていたつもりでも、「ヤマジョウは新築しかやらない」と思ってちょっとした工事は他へ頼んでしまったというお客様もたくさんいらっしゃいました。そういうのは定期健診でなくなりましたね。絶対次の仕事に繋がります。

性能と自然素材の両立

ヤマジョウ建設さんの家づくりを一般の方にPRするとして、これという特徴があれば教えてほしいです。

やはり、「家は性能」だと今は言っています。だから耐震とか省エネとかも国が決めている基準が60点の性能だとしたら、うちは90点から100点の性能を目指していますね。30年後に隣へ家が建ったとしても、絶対見劣りしない性能を目指して提案させてもらおうと思っています。建てる際にはコストはちょっと高くつきますが、お客様には性能は落とさず大きさでコストを調整して決めましょうといつも話しています。だから最初話すときは資金面の、例えばこのくらいの予算でしたら35坪くらいにしましょうみたいな話しかしないですね。
また、最近はエネルギー自給住宅、これは電気代の話ではなくて電気エネルギーそのものを自給しようという意味です。今すぐではなくても蓄電池か車かどちらかを必ず見すえていこうとも言っていますね。そのためには太陽光発電は必須です。我慢して自給していてもだめなのですよね。普通に生活していて自立できなければいけない。ですからたくさん発電しなくても少しの電力で生活できるように省エネが必要になります。断熱や気密はそのためでもあります。今度「トリプルゼロの家」、光熱費ゼロ・エネルギーゼロ・不安がゼロというのを打ち出すつもりです。

それらを踏まえて、ヤマジョウ建設さんの家をキャッチコピーは、一言で言うとどんな感じになりますかね。

「ずーっと安心」というところかな。何十年先も建てたときと同じ性能でずっと安心してもらえる、そういう造り方を心がけています。

工務店の特徴は外から見たり話を聞いたりすることで分かるのだけれど、今回、モクタウンとかいろいろなことでみなさん特徴を出してくださいと働きかけてもなかなか似たり寄ったりなキャッチコピーになってしまう。それではちっとも面白くないと思う。私はパワービルダーがファミリーレストランなのに対して工務店さんは専門店だと思っている。だから工務店さんはずばっとこう、トガったキャッチコピーが欲しいですね。

自分たちではなかなかわからないですよ。「30年先もずっと安心な住宅」も少し地味ですしね。変なことを言わない限り文句は言われないと思いますし、トガったようなことを行ってもいいとは思いますね。

例えば「住宅は性能だ」とか。

それだと某パワービルダーと被りますね(笑) でも、そこと競合したら1時間でオトせる自信があります。住宅は性能までは一緒なのですが、違いが3つある。1つ目は、向こうが設備にオリジナル製品を使っているのに対して、こちらは日本のメーカー品を使っているので、将来万が一うちがいなくても修理できること。2つ目は木材に対する考え方で、某ビルダーさんは木材を全て薬品に含侵させたり注入したりしている。でも、私たちはもともと虫が食えない環境をつくって、日本の木も100%使って、薬での防腐処理は一切していないですね。薬が効いているということは、たとえ薄くとも人間の体には絶対よくないと考えていますので、基本はやらないです。その代わり、別の部分で防虫を担保する機能をつけている。家の基礎の下に忌避剤を埋めることで保険をとるくらいです。そして最後は、床暖房をするかしないかですね。向こうは性能が良いんだけど床暖房をほぼ100%つけますね。床下まで空気を回していないから、つけないと暖かくないんですよ。床断熱では絶対暖かくならないですから。空気の断熱には絶対負けるし輻射熱も起きないです。だから床暖房をつける。でも、設備は永久には使えませんから10年くらいでこれも壊れます。床暖房を直すのは大変面倒だし経費もかかる。だったら、最初から床暖房しなくても暖かい方法があるならどっちがいいですかという話なんですよ。

では、床が冷たくならない断熱だとどういう方法になるのですか?

それは基礎断熱ですね。風というか空気の流れもきちっとしてやらないといけないです。床が冷たくないのは性能のよさの副産物として享受できるのだからそれを普通にする。この3つを話すと、たいていこっちへ来る。この間も、母屋は某ビルダーで作って離れをどうしようか迷っていたお客様が来たときもこれを話したらうちが造ることになりました。

そうなると、「性能と自然素材の両立」という感じが良いですかね。ふつう自然素材を使う人だと、性能はあまり関係ないというところが多いけど。 長屋社長:私は性能と自然素材の両立は絶対にしなければならないと思っています。

構造材も銘木も ―ぎふの木ネットに期待すること―

最後に、こちらのPRもということで、ぎふの木ネットの今後に期待することなどがあれば教えてほしいですね。

やはりみんな想いが同じ人が揃っていまして、細かい所ではしがらみがあるから一度に大きくはできないとは思います。サプライチェーンもまだまだ小さい。でも、その小さいつながりの中でまとまっていけば大きな流れになると思います。一番期待するところは規格化ですね。(協議会には)リーダー的に頑張ってもらわなければならないところがあるなと思います。
会長はいろいろなところの会長を務めてみえて、色々大変なこともあると思うのですが、そういうのもやらないと流れが出来ていかないんじゃないかと思いますね。

最近年取ってきたせいか分からないけれど、うちの利益というか、会社の利益……さすがに下向きになっては困りますけど、たくさん儲けてやろうという気持ちがなくなってきたのですよ(笑) それよりも、かっこいいこというわけではないけど、地方創生というのを意識してきています。岐阜で生まれて、育って、昔から岐阜が好きなんですよね。そうかといって、今さみしいわけよ。岐阜には木材資源がこれだけ、全国でも有数なくらいはあるわけで、材木屋も工務店さんもいっぱいいる。でも県外からどんどん進出されていて、大手にも浸食されている。材木屋もコスト競争にさらされ、レッドオーシャンの中にいる。これでいいのかという気持ちがある。決して楽をして儲けようというわけじゃなく、やっぱり世の中のためになることをして、その中で自然にうちも良くなるんじゃないかなと思いまして。
私は今木材だけでなく銘木もやっています。岐阜を銘木のメッカにしようなんて話も出てきている。今業界ではケヤキが売れない。これは岐阜だけじゃなくて関東や九州も同じ状況ですね。日本では売れていない。でもケヤキは硬いし強度も耐久性も資源量もある。だからケヤキのプロジェクトをやろうと県にも話をしている。県からも面白いから支援しようという動きになっている。メディアの方にも取り上げてほしいという話をしている。私としては、工芸品や民芸品のような使われ方だけではなくて、オシャレなケヤキとして非住宅に使われるようになってほしい。

どうしてもケヤキというと民芸品や昔の伝統的な住宅の床の間みたいな、高くて古臭いイメージが強いですからね。

最近いろいろなところの役職を引き受けるようになってしまいまして、林業関係の会合にも勉強させてもらう感じで参加するようになっている。

私も林業の方と関わる機会があるのですが、山側の方と私たち工務店の様な川下の方とは木に対する考え方が全然違う。だからサプライチェーンは本当に難しい話だと思います。個人的には本当に信頼を受ける山と製材所と手を繋がないと、契約書1枚でもなかなかできないと思っています。もっと山に入り込まないと。

むしろそういう面で私たちは山初心者のつもりで教えてもらうつもりでいます。

個人的に山から全部サプライチェーンをまとめるのは、やはりハードルが高いと思います。
備蓄については、立木での備蓄もあるし伐採した分の備蓄もあるけど、国産材で一番ボトルネックなのは乾燥されたものをどれだけ備蓄できるかだと思うのですよ。製材がどれだけ頑張っても乾燥機が出ないと意味がない。

そうなると製品の備蓄の話になってくる。

岐阜がちょっとした集積工場になっていったらすごいですよね。

実は倉庫を増設する計画もありまして。

ぜひそこへロングスパンの材を。20mとか。県産材のストックを始めれば、全国でもかなり有名になれると思いますよ。

本日はありがとうございました。