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永富

永富 永富社長×ぎふの木ネット協議会会長 吉田会長

国産材を使えば国全体にメリットがある ―岐阜県産材サプライチェーン―

ぎふの木ネットの運営について、特にコロナが始まってからの1年半は、ウッドショックにも追われ協議会の形作りや会員の方々への対応がなかなかできませんでした。しかし、ここで本腰を入れて協議会の運営を成功させないといけません。そのためには、ぎふの木ネット協議会やモクタウンに参加される方がメリットを得られるような、会員さんのもとで家を建てられる方をたくさん集めて情報を提供できるような仕組みにしなければならないと思います。
これからの方向性として、国や県も推進する、脱炭素化へ舵を切ろうと考えています。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)や、大学と健康や睡眠についての共同研究にも力を入れる予定です。

ぎふの木ネットの活動で私が一番惹かれたのは、岐阜県産材サプライチェーンの話なんですね。サプライチェーンは私たちが単に使いやすいというだけではなく、今の世界情勢をみた場合になぜ特別品質が優れるわけでもない外国産材を使っているのかという問題だと感じています。それに、地域でサプライチェーンを作るのはとてもイメージがいいと思います。

昔の木材は自給率100%でした。(輸入が)自由化して、外国産材が入ってきてからどんどんと国産材のウエイトが減ってしまい、一時期は19%まで自給率が落ちた。そこからいろいろテコ入れして、30数%まで戻りました。おととしにウッドショックが始まり、外国産材が入ってこなくなって、今は42%ぐらいになっている。でもまだ5割以上は外国産材ですね。

例えば農業は国の支援がありますが、材木も、国産材ならこれだけ支援するといった仕組みがあれば価格で負けないと思います。

農家は一時500万戸ぐらいだったのが現在は180万戸くらいまで減っていますが、最近は盛り返しつつあります。これは付加価値の高いものへのシフトや、合理化や集約をしているからなのですよね。

例えば日本の野菜は外国で高く売られていると聞きますね。

農産物の自給率は現状37%くらいですね。木材の自給率が42%だからいいとも悪いとも言えないかもしれないですが。ただ、農産物の自給率を100%にするのはなかなか難しいと思いますが、木材は100%も可能です。100%にしてもここ50年で国産材の資源量は約3倍に増えているし、今もまだ増えつつありますから、資源は減りません。岐阜県は特にその傾向が強いです。

そういえば、岐阜での木こりの方々の状況はどうですか?

減っている。どえらい減っている。

そういうところは職人さんと同じですね。仕事のイメージがよくなって、若い人たちが行くようになるといいですけどね。でも今一番よくないのが、そういう人たちがお金を稼げないところにあると思います。

そう、そこなんです。今の林業従事者の平均年収は三百数十万ですよ。その上危険がすごく多い、死亡事故も多い。そのような状況で若者が生活していけるか、これが問題なのです。そのためには、山の生産性も上げていくべきだと考えています。

ウッドショックに入ってから、木材の輸入元の会社が驚異的な利益を上げている。もちろん、全てを国産材はできない部分もありますが、海外にお金を払うのであったら、国を挙げて国内で(サプライチェーンを)回してみんなで豊かになれないのかとは思いますね。普通に考えて国としてもすごくメリットがある話ですし、日本は貿易赤字国でもありますから。

結局、山側にわれわれやビルダーさんへの不信感があるからですよね。今まで、海外でストライキや資源の問題が起きて一時的に供給が滞ったときにも、国産材を使う動きが出ていました。でも問題が収まるとまた元に戻ってしまう。そうなると山側の人間は梯子を外された形になってしまう。この繰り返しが原因です。

それがサプライチェーンできっちりつながっていけば……

今までもサプライチェーンの計画があったのですができていません。なぜかというと、形だけではなく紳士協定でもいいから協定を結ぶところまでいかなかったからなのですよね。ぎふの木ネットでやりたい構想としては、例えばビルダーさんが年間10棟のうち3棟くらいは国産材で建てる計画をします。そうすると山の方はその分の原木を製材工場まで供給し、製材してもらうというものです。
予定を立てることで、価格のみならず山もメーカーも安定供給の安心ができます。紳士協定としたのは、約束までいくと縛られすぎるからです。

国産材はどんどん使わないとね。

背景を知ってもらうことが大切 ―岐阜県産材を使ってもらうためには―

私は最近、「木のチカラで地方創生」をスローガンに掲げて活動しています。どういうことかといいますと、最近、岐阜も含めて地方は元気がないと感じています。
例えば岐阜の柳ケ瀬のようなかつての繁華街も、今やシャッター街になっています。人口も減り続けています。また、中小企業が多く産業基盤も盤石とはいいがたいです。しかし、岐阜には優良な木材資源がたくさんあります。私はこれを何とか積極的に活用したいと思うのです。そのためには、現状の木が育つ量よりも木を伐る量がすごく少ない状況を変えないといけないと考えています。岐阜県産材をもっと積極的にアピールする方法について、何か考えはありますか?

私が思うのは、今の若い人たちは意外と物の背景、どこでどう作られたかや誰の役に立っているのかを重視する方が多い。岐阜で育った木を使うと安いだけではなく岐阜の山や人へ貢献ができ、メリットが大きいことをアピールすると若い方には響くと思います。特に最近は、円安が進んで日本が損しているようなイメージが強いですから、海外からわざわざ買うよりも日本の中で需要を回すほうに共感する方はきっとたくさんいると思います。

私たちも、このような活動に今の若い方の多くが共感してくださるのは感じています。
今は物だけでなく背景も考える消費が根付いていて、買うことで間接的に活動へ参加できるとの考え方も強くなっていますしね。

そういう考えは嬉しいですよね。海外から買ってきた材木よりも、同じ値段でバックボーンの説明ができればほぼ100%国産材が選ばれると思いますよ。例えば木こりの方や製材をされている方が笑顔でにっこりしている写真があれば、ここから買うことでこれだけいろいろな方が笑顔になれる、笑顔になれるものをつくれるといったことが伝わるのではないでしょうか。

いいですね。なかなかそういう現場は遠くてお客様が関わることも少ないですから、そういう方たちの声であったり顔であったりが前面に出るようにするべきだと思います。

お客様の欲しいものはできる限り何とかする ―家づくりのこだわり―

今日いろいろと話をさせてもらっていますが、御社の特長も聞かなければいけませんね。例えば、いろいろな方に合うように、みたいな。

いろいろな方というよりは、お客様の欲しいものや困っていることを何とかすることが近いですね。例えば昔、自分が大工として造っていたときに、ここに使えそうなスペースがあるが図面は生かしていないということがありました。造るだけの立場だったときは、これだけスペースが空いているなら、大工の工夫でもう一ついい場所ができるのにと疑問を覚えても、そうはできませんでした。だから、家づくりは予算こそベースにありますが、その中でお客様が欲しいものや困っていることを何とかすることを心がけています。だから、いろいろするように見えているのだと思います。

そうなると、家づくりのこだわりを具体的に聞きたいですね。

うちはもともと注文住宅もやっていまして、今ではテナントに関わることもありますがお客様から頼まれたことは何でもやりますという感じで「こういう風にしたい」との要望は何とか実現させるつもりでつくっています。だからちょっと変わった要望やお客様が難しい課題をくださったときでも実現させるようにしています。そういうこだわりだから、ゼネコンなどから回ってくる仕事も意外と難しいものが多いですし、そんなときは、壁紙1枚貼るところからでもかなり難易度の高いことをしていると思います。
例えばオーナールームの家具で、端から端まで5mのところに空中に浮いたようなデザインの大きなテレビボードを作るよう依頼されたことがあります。その時は、裏の見えないところへぶら下げるように金物を仕込んで作りました。また、デザイナーの方が描きたい放題に設計したようなエントランスを実現させたこともあります。それ以外にも、仕事柄週末は家で映画を見てゆっくりしたいというご夫婦のためにあえて南側の窓を少なくして外から見えないようにし、中庭を作り、プロジェクターをつけたこともあります。 このような仕事は言い値で請けているので、金属加工をするときも、家具を作るときもいろんな作り手の方と一緒に一生懸命、お客様がおっしゃるものをどうやったら作れるだろうと楽しんで考えて作っています。その結果、いろいろなものがつくれるようになりました。今は多くなったアイアン製の階段も、造るところがほぼなかった15年前ぐらいからずっと造っています。

今の家づくりに思うこと ―本当にいい家とは―

私は今、大手のハウスメーカーがきている中で、地場のビルダーさんの独特の個性を持った住まいづくりの競争力で対抗できないかと考えていますし、闘うためにはどこか強みを出していかないといけないと思います。まず、資材や工法の一部などパッケージ化できるものは共通化して、一社単独ではなかなか勝てないコストを共同で下げていきます。
その上でそれぞれ個性がある住まいをつくって、多様化するお客様それぞれの感性に合う工務店を選んでもらうことが大切だと思います。例えば大手をファミレス、中小を専門店とすると、ファミレスは何でも出せるのに対し、専門店は「天ぷらなら絶対に負けない」というような強みがあるように。ぎふの木ネットは、そのようなそれぞれのこだわりを持った集まりにしていきたいです。

私は、家は単なる商品ではなく人が住むための場所との認識、考え方を芯に持っています。一部の大手さんだと、建物自体の魅力よりも完全にイメージ戦略を重視しており、家が売れさえすればよいと考えるメーカーもあると聞きます。そこまでくるともう完全に消費者のためにはなっていないと感じますね。以前対応したお客様で、「大手の説明に納得したわけではないが、知り合いと話す手前示しをつけるためそこで建てたいとなってしまう」とおっしゃった方がみえました。私は世間の、建物よりもブランドに惹かれてしまうような考えを変えるような周知がとても大事だと考えています。これは私のような小さな工務店だけで成し遂げるのは難しいので、ぎふの木ネットのようなグループでしてくださるとありがたいですね。また、ぎふの木ネットにはそういう価値観を持った方たちに多く参加してもらいたいですし、価値観を理解してくださるお客様を引き寄せられるようにしてほしいですね。

共通するのは「寄り添う」こと ―新ブランドへの意気込み―

先ほども話しましたが、私たちはお客様の想いに合わせて家をつくっています。最近は3000万円くらいの予算で家を建てる方が多いのですが、家だけで3000万円を超えるとなると、土地を持っていない方には厳しくなってしまうことが多いです。さらにいろいろなものがどんどん値上がりしている。だから最近はリノベーションばかりですね。昔の資材が安かったころは建て替えた方が早いとなっても、今はそれだと高くなってしまう。それに、新築したいお客様だともう買えない、壁ができてしまっています。
そういう現実をみて、今のスペースラボ、空間研究所のブランドに加えて、もう一つ全く違う新しいブランド「住まいのパズル」をはじめることにしました。ブランド名には、新しいものを一から生み出すのではなくて、今までつくってきた型をパズルのように組み立てて建てる家との意味を込めました。このブランドではとにかく値段を安くすることを重視しました。

いろいろこだわり・コンセプトを分けるのはいいことだと思います。今回、対談目的の1つに工務店のキャッチコピーを作ることがあります。ワンセンテンスでキャッチ~な感じで、こういう家づくりを目指すと伝わるようなフレーズはなにかありますか?

やはり、2つのブランドはそれぞれ全然想定するお客様の価値観から違うものになりますので、全体となると難しいですね……。

今回はまず、工務店紹介ですので全体のキャッチコピーをぜひお願いしたいですね。
これまでですと、例えば、性能を売りにしている工務店さんだと「住宅は性能だ!」というようになりましたし、すごく面白いことをしている工務店さんだと「日本一面白い工務店」といったようにつけてきています。その上で、方向性が違うブランドをいくつか持っていらっしゃるところの場合、モクタウン上のページを複数に分けてブランドごとにキャッチコピーをつけることもできます。

2つのブランドに共通することは1つだけあります。それは、お客様に寄り添った、お客様に合った家づくりというところです。

永冨さんのコンセプトを伺って文字に起こし、それをモクタウンに掲載してそれぞれの特徴を紹介するのが今回の目的ですからね。お客様が「どこでも一緒だ」となってしまわないように差別化が重要となります。そうなると、ブランドを分けた際にはコンセプトがそれぞれ分かれると思いますが、会社のコンセプトとして考えた場合に共通するのは「寄り添う」になると思います。

さらに、来年はまたもう1つブランドを立ち上げようと思っています。これは先ほど話したものとは逆で、富裕層向けのサービスを展開する予定です。簡単に言いますと使いきれていない設計士さんをフル活用しようということなんですね。結局、想いがあって設計の仕事を本当にやりたくてもできない人がたくさんいるのです。その中で、名前も出ない設計士さんたちは高い設計料の仕事がもらえていない。だから、設計士さんをフル活用して、至れり尽くせりではないですが、時間をかけて高級な建物を建てるブランドにしようと思ったのです。
そのような建物を建てる方は、想いが強い方がとても多く、色柄を決める打ち合わせだけでも日付をまたぐことも少なくないですね。例えば夕方5時から打ち合わせを始めて深夜の1時までかかったことがあったり、庭石を選ぶだけでも3か所くらい見て回ったりしたこともあります。そこまでして家づくりする方のために、最初から設計料を設定して費用をもらうようなブランドにする予定です。

「住まいのパズル」というネーミングはなかなか面白いですよね。最初に聞いたときに「なんだろうな」と思わせるような魅力があります。もうロゴなども作られているのですか?

つくっていますね。

「スペースラボ」とか「住まいのパズル」とか、こういうブランド名を前面に出してもよさそうですね。新展開のブランド!というように。

社員みんなでアイディアを出しあって決めた名前です。「スペースラボ」も含めてちゃんと商標登録もしていますよ。

ぎふの木ネットの資材パッケージについて

今回新しく立ち上げようとしているブランドは、設備のサイズを規格化してしまい、色もカタログから選んでもらうことで自由度は下がるかわりに経費を抑えられるようにしています。色からサイズからすべてお客様が決められるのはとても喜んではもらえるのですが、材料費が高騰する状況でそうすると、やはり現実的に金額面で手が届かない方たちが出てきます。そこで考え方を変えました。
同じくらいの時にちょうどぎふの木ネットの構造材パッケージの話が出てきました。すべて規格にするのにもメリットがあるのかなと思い、これも参加することにしました。新ブランドは、会社の名前は出さないブランドにしようとしていまして、9月には販売を始める予定でいます。

パッケージ化で、御社のセミオーダーの仕組みに合わせていくのはおそらく可能ですし、そのあたりのお手伝いはぜひしていきたいですね。それに、営業マンの仕事もそういうところにあると私は思っています。ただ物を売ったり買ったりしてほしいというだけではなくて、自然に商材の話が出てくるような仕組みを作る……大変ですけど、それで利益が入るようにしたいです。ぎふの木ネットでも梁も国産材が増えてきていまして、在庫も持とうとしているところです。今すぐできるなら杉か桧になりますね。

パッケージで桧が使えるようになると強度的にも安心できますね。

杉でも使われてみえる方はみえますね。

杉でも複雑でない、そのまま耐震等級3がとれるような普通の住宅であれば問題なく使えると思います。ただ、3階建てかつ狭小住宅のような建物だとどうしても部材の強度が足りなくなる可能性が出てくるのですよね。ですから、使う先が違うかもしれませんね。でも、梁まですべて桧材でできたら本当にすごいと思いますよ。

そういう要望は今とても多いですね。われわれも、要望があるので何とかできないかと動いています。また、モクタウンに入ってみえる工務店さん向けには、基本的なパッケージを応用して工務店さんごとのパッケージをお手伝いしながら作っていく予定でもあります。

工務店ごとにも考えてくださるということなのですね。

もちろん、全部のお客様へすることは難しいですから、まずはモクタウンに入ってみえる方からわれわれのスタッフと相談しながら、税金の控除や補助金、耐震等級や断熱等級にも対応できるようなものをつくっていけたらと思います。

断熱性能の話をするたびに、なにか微妙に考えが足りてないところがあるのではといつも思うのですよ。なんでも窓を小さくすればよいというような話になってしまっている気がします。

それについては、われわれがぎふの木ネット仕様で建てた現物も2棟ありますから、もしよろしければ見学もできます。桁まで全部杉で作っていますよ。この前私も見に行きまして、結構性能も良いものですし、災害が起きてもハイブリッド車などを活用して電源が供給できる設備も付けました。

そういう設備は、今でこそ皆様興味を持ってくださいますけれど、少し前までは、「こんなの早すぎる」とよく言われましたね。

ぎふの木ネットと価値観

これから、ぎふの木ネットやモクタウンの活動や考えを浸透させて皆様にお伝えするためにはどうしたらいいか、何かアイディアはありますか?

やっぱり、参加されている方々でぎふの木ネットの一番肝となる部分がどこだということを共有できたら伝わっていくと思います。今なら安くできるとか商売として成り立つとかの話だけではなくて、こういう試みがあるということをぎふの木ネットの売る側・つくる側へ周知することが先だと思いますね。その上で皆がそこを一つにすればすぐに外へも伝わるのかなと考えます。

私は、モクタウンやぎふの木ネット自体には皆様いろいろな考え方があるけれど、われわれ自身が会員の方のお話を聞きながら目指すべきものを明確に出して、それに賛同していただいた上で個性を出してもらえればいいと思います。私としては、ぎふの木ネットで肝として目指すところはやはり脱炭素化や健康や人々の幸せですので、そこに共感していただきたい。
また、岐阜の山の問題についてもとにかく何とかししていきたいと考えています。
サプライチェーンの問題もそうです。ですから協議会は国の方向性とか脱炭素とか健康とかも含めて、1社では出来ないことをみんなでやろうとの流れにしていきたいのです。最近新しく入られた会社はビルダーさんではなくて、今まで商売上の関係もなかったですが、自分たちの持っているものでどう世の中に貢献できるか、それでわれわれの活動が参考になるから協議会に入りたいということでしたね。でもそういう方々にも賛同してもらって団体で情報発信できれば、行政にしても、議員の方にしても、さまざまな方から応援されるような団体になると思います。現状230社・団体くらいに入っていただけています。数だけを追うわけではないですが、300団体を目指して情報発信をしていきます。