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ぎふの木ネット協議会 座談会

すべては未来の森と人のために 木でつくる健康な暮らし

県土面積の81%を森林が占め、昔から森林とともに暮らしを営んできた岐阜県。地域の森林から伐り出した木材を使うことは、森林を健全な状態を保つだけでなく、林業や建築業など地域産業の活性化にもつながる。また住宅などに使用することで、木が持つ性能や効果が人の健康維持に役立つことも期待される。今回は、木が人に及ぼす影響や木材活用の可能性について、首都大学東京名誉教授の星旦二氏と、岐阜大学応用生物科学部教授の光永徹氏、ぎふの木ネット協議会会長の吉田芳治氏に話を聞いた。

木がもたらす好影響 住環境が健康をつくる

人々の健康に、木はかかせない存在

私たちが健康で長生きするために、必要なことは。

全国的に平均寿命が長い県を見てみると、その特徴として山が多いことが挙げられ、水や空気が美しく環境が豊かであることが、健康に大きく影響しているといえる。そのため多くの山々に囲まれた岐阜県は、長寿を誇る県の1つだ。

一方で長野県では、50年前まで年間約5000人が脳血管症で死亡していた。そこで「農村医療の父」と呼ばれる岩月俊一医師は、住宅の寒さに原因があると考え、住環境の改善を推進。結果、脳血管症による死亡者は約1000人まで減少し、現在は健康長寿の県といわれるまでになっている。また北海道では、早くから住宅性能を高める健康住宅運動が行われ、厳しい寒さの中でも冬季死亡増加率が低い。こうした点から、自然環境とともに住環境が健康の鍵を握ることが分かる。現在、岐阜県は冬季死亡増加率が高く、住宅環境を改善すれば、さらなる健康長寿につながるといえる。

すべての木はセルロース、ヘミセルロース、リグニンという主要成分から成り、電磁波や紫外線、臭いや音などを吸収する性質を持つ。それに加えて、木はそれぞれ特有の香りを持っており、例えばオーストラリアヒノキの香りは肥満抑制効果があるなど、生体にさまざまな影響を及ぼすことが、科学的データに基づいて明らかになっている。

私は現在、日本産ヒノキ科の木材の香りが、生体に与える影響を研究しており、すでに研究成果の1つとして、うつ病の症状を持つマウスにスギの香りを嗅がせると、行動パターンや記憶力などの学習能力が回復するというデータを得た。動物実験レベルでは木の香り生体・生理にが好影響を与えることを実感しており、今後は人においても、日常に木材の香りを取り入れて交感神経と副交感神経のバランスをとることで、体内のホルモンバランスや認知症や骨粗しょう症などの改善につながればと考えている。

私も2年前に健康住宅を目指して自宅をリノベーションしたが、輻射熱を用いた暖房による均一な温かさと、ヒノキやスギ、ヒバなどの無垢材がもたらす爽やかな空気に何ともいえない心地よさを感じ、木には「未病」を改善し、発病させない効果があると実感している。

 しかし、住環境や木材が健康に有効であると分かっている一方で、岐阜県は豊かな木材資源に恵まれているにもかかわらず、それを使いこなせていないのが大きな課題だ。特に多くの木材が使われる住宅業界は、安価で効率化を図れる外国産材や新建材を使用する家が増加し、国産材の使用が減少している。地域に根づく林業就業者や工務店など、木を扱う担い手の減少や森林の荒廃を防ぐためにも、国産材の需要を増やしていくことが急務と考え、昨年4月に産官学が連携して県産材のさらなる活用を目指す“ぎふの木ネット協議会”を発足した。

木の良さを発信し、地域産業の活性化を

木のある生活で暮らしを豊かに

ぎふの木ネット協議会発足の意義は。

同協議会では、「山・人・技術」を守る取り組みを通じ、地域活性化を目指している。まずは、木材を適切に使用し、豊かな山をはじめとした自然を次世代に残すこと。同時に、木の性能を活かした住宅などを普及啓発し、木の力で人の健康を守ること。そして、木を扱う技術や職人の育成に注力し、地方創生につながる地場産業を元気にすることが、大きな柱だ。

現在、こうした考えに賛同する企業や団体も約150になり、木材の共同仕入れなど地域の1企業だけではできない取り組みに向けても、可能性が広がっている。今後も賛同者を増やして発信力を強めるほか、協議会の方向性を具現化した成果を出すことが使命だと考えている。

例えば漆喰や無垢材などの自然素材でつくられる、昔ながらの日本家屋に住んでいた時代には、花粉症はなく、住環境の変化が原因の1つといわれている。またヨーロッパでは、長い年数持続可能な住宅を建て、(石造りの家などは約500年)、地域の工務店がメンテナンスをする文化が根づいている一方で、日本は平均27年しかもたない家が多く、常に住宅ローンを抱えているため生活満足度も世界の中でとても低い水準にある。地元の木・地元の工務店で建てた100年もつ住宅をメンテナンスしながら住むことで、健康と地域活性化を実現する。そのサイクルが生まれれば、日本の先駆的モデルになると感じている。多くのエンドユーザーがこうした知識を得て、環境や資産性を考慮した適切な選択をする「インフォームドチョイス」ができるよう、同協議会から正しい情報を発信してほしい。

近年、介護施設や教育施設では、木の香りや木目の美しさ、木肌の温もりなどが精神生理に働きかけることが分かっており、スギ材を用いた教室において、落ち着きのある小学生が増える傾向にあるという研究結果もある。しかし、こうした多くの研究も、研究者がその結果を消費者の目線に立って発信しているかという点では、まだまだ十分ではない。エンドユーザーに「木はいいもの」という認識を持ってもらい、木を暮らしの中でもっと活用してもらうためには、木の効果を具体的な数値で感じてもらうエビデンスを示すことも必要だ。その点で、多くの企業や団体が参加する同協議会に研究機関も参画し、研究成果を確かなデータとしてエンドユーザーにも分かりやすく伝えることは、大きな意味があると考えている。

木のチカラで 森も人も健やかに

木は多くの可能性を秘めている

今後、ぎふの木ネット協議会が目指すところは。

今年は1つの目標として「健康寿命を伸ばすこと」を掲げ、それに向けて県産材を利用した商品やビジネスモデルの開発に努めていく。現在、同協議会にはIT分野の企業も参加しており、「ITを使って業界にイノベーションを」というのも大切なテーマの1つだ。幅広い分野の企業が互いのノウハウを持ち寄り、まったく新しい発想が生まれることを期待している。

 また今年はオリンピックイヤーにあたり、その舞台となる国立競技場や選手村には、47都道府県の木が使われている。その中でも岐阜県の木は良質で、自信をもって世界にアピールできるいい機会だと感じている。国内外に岐阜県の木を広く発信し、森も人も健やかに育つ未来を築いていきたい。

岐阜新聞1月4日の記事より