その他

江戸時代、伐採禁止になった「木曽五木」

今でこそ山は生い茂り、伐期を迎えた日本の森林は利用することで、次の木を植え、循環するサイクルがSDGsの観点からも推奨されていますが、昔は違いました。

山にある木は今よりも大変貴重な資源として使われ、住宅に近い山の木は伐採され、ハゲ山になってしまうということはよくあることでした。
木は軽い割に強度があり、加工も容易だったことから利用価値が高かったのです。
例えば食器や箸といった生活に欠かせない道具や、家などの大きな建造物の骨組みまで、用途は様々でした。

1本で、首ひとつ。

江戸時代でも、当然の如く山は資源の宝庫であり、近くの山の木は伐採され地域によっては木材が枯渇してしまうという事態が起こり、伐採を禁止する制度が取り入れられることもありました。
それは「木曽谷」でも行われていました。
木曽谷は長野県木曽郡と岐阜県中津川市の一部の流域のことを指しており、このあたりのヒノキをはじめとする木材は良質とされてきました。
しかし、大量に伐採され木材が枯渇し、当時直轄であった尾張藩は、「停止木制度」という伐採禁止令を布きました。

この禁止令は「一本伐ると、首ひとつ」というかなり重い処罰があるものでした。

伐採禁止になった5樹種

その禁止令で伐採禁止となった停止木を「木曽五木」といいます。
それがこちらの5種類。
左からヒノキ・サワラ・アスナロ・クロベ(ネズコ)・コウヤマキです。

この5樹種の頭文字をとって「あさひねこ」という覚え方をします。

木曽五木は一番良質な木材であるヒノキとヒノキに似たサワラ・アスナロ・クロベの伐採を防ぐこととと、利用価値の高いコウヤマキを守るために制定されました。

木曽五木

ヒノキ

ヒノキ科ヒノキ属
日本に広く分布している。その中でも木曽谷のヒノキは最高級品とされており、長野県側のヒノキを木曽ヒノキ、また岐阜県側(裏木曽)では東濃ヒノキと呼ばれる。
木材は高い耐久性を持ち、香りが好まれる。
建築材料として優れ、法隆寺や姫路城、伊勢神宮や名古屋城など、日本の名だたる建築物に使用されている。

サワラ

ヒノキ科ヒノキ属
ヒノキに似ており、ヒノキよりもやや柔らかく、また匂いが強くないのが特徴。
サワラで作る飯櫃は最高級品とされ、調質効果が高い木材である。

アスナロ

ヒノキ科アスナロ属
ヒノキに似ており、抗菌作用の元となるヒノキチオールをヒノキより多く含む、抗菌性に優れた木。
木材としてはヒノキにやや劣るため、明日はヒノキになろう。という語源から「アスナロ」とついたとされる。
正式な和名としては「アスナロ」だが、「ヒバ」や「クマサキ」など別名がある。

クロベ

ヒノキ科クロベ属
ヒノキやアスナロ、サワラほど広く分布している木ではなく、市場で出回ることは珍しい。
別名はネズコといい、近年人気となった某アニメのヒロインの名前と同じということで少し知名度が上がった。
樹皮は火縄銃に使用されていた。

コウヤマキ

コウヤマキ科コウヤマキ属
和歌山の高野山に多く見られることから名がついたとされる日本固有種の木。
材は腐敗しにくく、木棺として出土しているほどの高い耐久性・耐水性を持っている。
また、悠仁親王のお印としても知られる。

どれぐらい似ているのか。

ヒノキとヒノキの誤伐を防ぐために制定された4種ですが、実際に上記の写真を見るとよく似ていることが分かって頂けるかと思います。

では、どこで見分けるのか。
一番分かりやすいのは「葉の裏」を見ることなのです。

左はヒノキ、右はサワラ
左はアスナロ、右はクロベ

特徴としては、
ヒノキは裏が「Y」の字になっており、 葉が丸い。
サワラは裏が「X]になっており、 葉が尖っている。
アスナロは裏が、白く緑で縁取りされており、葉は丸い。
クロベは裏が、緑色で、葉は丸い。

岐阜の東濃の方へ行く機会があれば、ぜひ葉の裏を見比べてもらえればと思います。

この当時に伐採禁止令を布いたことで、現在木曽谷の森林は豊かな自然が保たれています。
木の国である岐阜の誇れる「東濃桧」は、今も適切に管理された山でのびのびと育っています。